どちらかが地に伏すまで
「オイ、後はテメエの好きなようにしな。俺はもう気が済んだから、以降は休ませてもらう。援護は期待すんなよ。」
スタスタと舟の側までやってきたファルは拾ってきた俺の剣を渡しつつ、交代を促した。それでも特に問題ない。むしろファルは休むべきだろう。平気な素振りを見せてはいるが、ブドー撃破のために全力を出し切ったはずだし。
「そうと決まれば、侍との決着に全力を尽くすまでだ!」
侍は崩れ去った相棒の残骸を前に一人、仁王立ちで待ち構えている。アイツも俺と同様、二人きりでの決着を望んでいるようだ。
「我が相棒が負けたのは口惜しいが、粋な計らいをしてくれようとはな。これで心置きなく、お主との決戦に専念できる。」
ここでようやく、侍は刀を出した。地属性の刀身に雷の刃を持つ“地雷也”だ。間違いなくここからは、競技抜きのガチの真剣勝負だ。額冠の中で剣豪勇者ムーザが見守っている気配を感じる。ヤツ自身も望んでいた、侍との決着が今再び、実現したんだ。
「始める前に一言言わないといけない事がある。」
「何だ?」
「アンタから貰った刀、ぶっ壊してしまった。魔王相手に技を使ったら、反動に耐えきれなくて完全にぶっ壊れちゃったよ。」
「別に構わぬよ。元より拙者が折った物だ。折れて以降も過酷な戦場でお主と戦えたのであろう?あれも道具冥利に尽きる、とでもいえるのではないか。」
侍は表情、構えを崩さずに淡々と告げた。相変わらず、ストイックな姿勢は崩さないつもりのようだ。
「そうか。アンタにそう言ってもらえるなら、それでもいいや。気にするのはやめとくよ。」
「始めよう。これからが本当の“巌流島”だ!どちらかが地に伏すまで、帰ることは許されぬ。」
その時、侍は一瞬で間合いを詰め、斬りかかってきた。知覚するよりも速く、俺の体は反応していた。剣で無意識に防御していた。
「良い反応だ。拙者はこの一撃で葬るつもりでいた。以前のお主ならば斬り伏せておったであろう。」
どうやら本気の一撃だったようだ。体が反応してなきゃ死んでたのか。全く油断も隙もない。常に手段を選ばない方法で攻撃を仕掛けてくる。やっかいなヤツだ。
「フム、伝わってくるぞ。以前にも増して強くなっておる。迷宮の主、魔王という大物を討ち取って更に成長したようだな。短い期間でここまで腕を上げるとは大したものよ。」
つばぜり合いをしただけで、相手の内情をある程度見切る特技は健在のようだ。本当にコイツの言うとおり、俺は強くなっているのだろうか?イマイチ実感がわかない。
「それだけではない。先日の試合でも、お主は何かを体得したのではないか。全く、一刻目を離した隙に倍以上の強さを手に入れておる。恐るべき男だ、お主は!」
最大級の讃辞かもしれないが、そこまで俺を評価するコイツ自身が恐ろしい。油断した隙をつくような戦いができないからな。ホンットに戦いにくい相手だわ……。




