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次の“ひんと”


 大武会第二回戦の日程が終了し、一日、間をおいてから、準決勝が行われるそうだ。選手の負担を軽減するために休養の措置をとる目的があるそうだ。まあ、その方が助かる。勝ち進めば進むほど、激戦になるし。



「おお、待っておったぞ!はよう、ここへ来い!」



 俺とファルちゃんは今晩もまた、いつもの飲み屋へとやってきた。今となっては、最初からジジイが店で待ち構えるようになっていた。店側もジジイを常連と認めているようだ。相変わらず、金は俺が払っているというのに。来なかったらどうするつもりなんだ。



「浮かぬ顔をしとるのぉ。お主ら、勝って準決勝に進出したのではないのか?」


「勝った……けどさあ……。」



 今日、ここへ来るのが遅くなったことにも関係している。……エドが重傷を負った。その容態が心配なので、他の関係者達と共に診療所へ訪れていたのだ。数カ所の骨折、全身の無数の打撲傷、命に別状はないそうだが、少なくとも一月は安静が必要になるそうなのだ。仲間のそんな姿を目の当たりにしてしまっては、自分のことで喜んではいられない。



「あの鎧の男のことで落ち込んでおるんじゃろう?お主まで気分を落としてどうする?」


「でも、仲間がボロボロになってんのにさあ、お祭り気分になって、バカ騒ぎするわけにもいかないだろ。」



 そのとき、ジジイは神妙な顔になり、飲み食いする手を止めた。始まった。賢者モード発動だ。何を言うのだろうか?



「お主まで一緒になって落ち込んだとして、仲間の怪我は治るのか?そうではなかろう。こういうときでも、心は平常にして活動するのが一番じゃ。心を曇らせたままにするのは、自らの波動を下げる結果となる。」


「……。」



 何も言い返せない。とはいえ、完全に受け入れるのも難しかった。心の整理が付かない。今はどうしたらいいかはわからない。



「それより、お主自身の話じゃ!儂はあどばいすを与えてやったが、なんじゃ、あれは!」


「なんじゃ、とか言われても……。」



 ガンツの鎧を叩き切ったことを言ってるのか?しょうがないだろ。怪我させるわけにもいかんかったし。でも返って費用がかかっているかもしれない。あんな全身金属の鎧なんて物凄く高価に違いない。しかも、ガンツ自身がでかいので、特注サイズだろうから、もっとかかるだろうな。



「儂は鎧通しの技のひんとを与えてやったのに、それ以上の超人絶技を披露する奴がどこにおるんじゃあ!」



 ジジイは非難しているが、嬉しそうな顔をしている。え?なんで?この前の話は無明八刃のことを言ってたワケじゃなかったのか?



「お主は相手の防御をすり抜ける一撃を放ったのじゃ。確かに技の威力を浸透させるには違いないが、その上で寸止めまでやっておる。想像以上の成果を上げておるではないか。儂のおる所まで一気に近付きおるとは大したもんじゃ。」



 ジジイがいるところ?高みに近付いたことを意味しているのか?実感がないわけじゃないが、ジジイがどの辺にいるのかがわからない。そもそも、流派も同じかどうかもわらないのに。



「あともう少しじゃ。じゃが、あと少しはとてつもなく遠い。次なるひんとは、“身を委ねる”ことじゃ。」


「何に?」


「それはお主自身が考えることじゃ。いや……考えるのも違う気がするのう。考えてもいかん。まあ、そういうことじゃ。」


「……?」



 ますます、意味不明な謎かけになってきた。考えつつ、考えてはいけない?矛盾している。どうすればいいのか?



「勇者よ!ここにおったか!」



 聞き覚えのある声がしたと思ったら、侍が俺達の前にやってきていた。こんな夜に何をしに来たのだろうか?


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