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五覇奥義、絶影百歩!!


(ギィン!!)



 二人の嵐のような攻撃が始まった。それぞれの長所を生かし、巧みに私を攻め立ててくる。外面的には憤っていたようだが、戦い自体は冷静そのものだ。相手を言葉で翻弄することにも長けている分、自らも翻弄されぬよう訓練されているようだな。



「フフ、いつまでもボク達の攻撃を凌げるとは思わない方がいいよ、オッサン!」



 小柄な方が私の気を引いている内に、長身な方が何やら細工を仕掛けてきていたようだ。気配を背後に感じる。



「ムウっ!?こ、これは?」



 私は突如動きを封じられた。体中に絡みつき、何か引っ張られているような感覚がある。これは……糸か?



「かかったね。アタイの蜘蛛の糸に!」


「糸とは言っても、良く切れるナイフ以上に鋭いからね!下手に動くと細切れになっちゃうよ!」



 やれやれ、もう勝ったつもりでいるようだ。暗殺者にあるまじき行為だ。普段とは違う場面なことで、油断したか?ここは一つ熱い灸を据えてやろう。



「貴様達は暗殺の裏技に長けているようだが、まだまだ知識が浅いようだ。世界には様々な流派がある。裏技もしかり、私の出身地、東洋にも独自の裏技があるという事を教えてやろう。」



 私は片腕だけ、糸から抜け出し自由に動かせるようにした。事前に警戒していた私は抜けやすいように細工をしておいたのだ。体の柔軟性も亡ければ出来ない芸当だが、縄抜けの応用でいくらでもやりようがある。すぐさま、背後にいる相手の死角を利用し、腿に指を突き刺した。



「ぎゃああああっ!」


「どうした!?何が起きた!」



 相手が動揺して糸を緩めたため、それを利用し完全に糸の束縛から逃れた。



「血管切り。東洋に伝わる裏技だ。しばらくは激痛でまともには動けまい。」


「クソッ!ふざけたことをっ!」



 小柄な方は瞬時に私から間合いを離し、身構えた。両手それぞれで自らの衣服の中に手を入れ、何かの準備をしている。



「これで死んじゃいなっ!!」



 瞬時に多数の飛刀を放ってきた。おそらく全てに毒でも仕込んであるに違いない。だが、こんなものは私の前では意味を成さない。



「一0八計が一つ!燕雀連攻!!」


(ピン!ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ!)



 槍捌きで全ての飛刀を払い落とす。落下した飛刀の渇いた金属音が鳴り響く。全てが落ちる間もなく、私は次の行動に移った!



「五覇奥義、絶影百歩!!」


「き、消えた!?」



 私は彼女の前から姿を消した。瞬時に背後へと回ったのだ。絶影百歩……影を残さぬほどの速度で、遠い間合いからでも瞬時に間合いを詰める技だ。五覇奥義の修得は五覇の称号を持つ者には必須の技だ。例え一つであったとしても、習得は難しい。それ故、これらの奥義を知る者は流派内でもごく少数の人間しかいない。



「終わりだ。あまり長引かせると、貴様らを本当に殺してしまいかねんからな。」


「なっ!?」



 槍の石突きで殴打し、彼女の相棒の近くへと弾き飛ばした。すぐさま二人の元へと移動する。勝敗は決したとはいえ、まだやることがあるのだ。



「クソッ、負けた。たった一人のオッサン相手に!」


「もう、アタイらは終わりだ。こうなれば後は……むぐっ!?」



 私は彼女らの口へ手を入れた。あることを防ぐためだ。二人を同じ場所へ移動させたのはそのためだ。



「早まるな、若者よ!」


「……!?」



 双方とも驚きと戸惑いの表情を浮かべている。私の狙いに気付いたようだ。



「貴様らは暗殺者だ。しくじれば当然、生き延びたとしても、死を選ばなくてはいけない。私にはそうすることくらいは安易に予測できた。私も似たような身の上なのでな。」



 二人は歯に仕込んだ毒で自決を試みようとするのは予測していた。わかった上で阻止をしたかったのだ。私自身もそうだが、同じような若者が同様の理由で命を絶つ現状をいくつも見てきたから何としてでも、止めたかったのだ。



「死ぬな。貴様らはまだ死ぬには早すぎる。死ぬのならば、一度私にその命を預けてはくれないか?」



 彼女らの毒を手で取り除き、手を口から離した。その上で返答を待つ。



「当然、貴様らの命は必ず守ってみせる。組織の手が及ぶであろうことはわかっているからな。」


「うわあああぁん!!!!」



 小柄な方が泣き出した。ようやく年相応の顔を見せてくれた。やはり辛く、苦しかったのだろう。

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