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予選会にて

「一0八計が一つ、霧中光燐!」



 翌日、大武会は始まった。例年より参加者数が大幅に増えたためか、本戦の前に予選会が行われることになった。本戦とは違いコロッセオとは別の施設で予選会が開催されている。……今はその真っ最中。



「ううっ、つ、強い!」



 刃の閃きをなびかせながら、滑らかに踊るような連撃で相手を攻め立てる。私が先生に稽古を付けてもらっているときに一目惚れした技だった。技の一連の流れのあまりの美しさに思わず見とれてしまった。見せてもらったとき先生は、本物の戟覇の技は自分と比べものにならないほど美しいと言っていた。けれど、そんなことを感じさせないくらい先生の技も華麗だった。そんな姿に憧れて、真っ先に教えてもらった技だ。だから、一番思い入れがある。



「うわあっ!」



 私の連撃に耐えきれず、相手は転倒してしまった。見ると相手は戦意を喪失しているようだった。



「も、もう無理だ。ま、参った!」



 相手から降参の意志が伝えられた。それはほとんど待つことなく、審判員にも伝えられ、私たちの勝利は確定した。先生もいつの間にかもう片方の相手を打ち負かしていた。



「フフ、とりあえずは本戦出場確定といったところだな。実戦経験の少ない君には少々ハードな戦いだったとは思うが、疲労は大丈夫か?」



 戟術を学び始めたばかりの私にとって、人と本気で戦うのはこれが初めてだった。ダンジョンなどで怪物たちや魔王といった人外の敵とは戦った事はあったものの、晴れてこの場で初披露という形になった。



「さすがに疲れました。肉体的にも精神的にも。」



 怪物達とは違い、相手を殺す訳にはいかないので、ある程度手加減をしないといけなかった。これが難しくて、やり過ぎてしまうのではないかと思う場面がいくつもあった。……でも、はっきりいってこの感覚はおかしいのかもしれない。相手を殺すことが前提になっているのが、自分には心苦しかった。



「たまたまとはいえ、格下の相手ばかりで良かった。ちょうどいい経験になったはずだ。だが、本戦はこうはうまくいくまい。相手は強者揃いのはずだから。手加減出来るような生やさしい相手など皆無だろう。そこからが本当の実戦だ。」


「はい。気を引き締めて挑みます。」



 今の私の技なんて、勇者様の剣技にはほど遠い気がする。戦闘の技術を学べば学ぶほど、彼の凄さがよくわかる。相手を生かしつつ、無力化する。それが体現できるのは彼しかいない。



「今日は明日からの本戦に備えてじっくり休むとしよう。万全の体制でなければ、本領を発揮出来ぬからな。」


「はい。先生のお言葉に甘えさせて頂きます。」



 疲れてはいるけれど、彼が参加しているのか、勝ち残っているのか心配になったけど、彼を信じることにした。負けるはずない。勝てないはずなんてない。まだまだ未熟な私が勝ち残れたのだからきっと大丈夫。明日は必ず彼の元気な顔を見ることが出来ると信じて予選会場を後にした。

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