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それでも彼女は待ち続ける。

「勇者様、結局戻ってきませんでしたね……。」



 私は待ち続けていた。きっと戻ってくると思って。でも、彼は姿を現さなかった。少し彼に意地悪をし過ぎたのかもしれない……。



「気に病む必要はない。私の提案で事を起こしたと説明すればそれで良い。私を悪役にしてもらっても構わんよ。」


「先生……。」



 初めは私に実戦の経験を積ませるという名目で、先生が大会の情報をもたらしてくれたのが始まりだった。先生は事前に二人一組で参戦する必要があることも知らせてくれた。それで最初は勇者様とともに出場することを希望していた。でも、先生は考えがあるということで、勇者様と敢えて袂を分かつ事を提案してきた。そう言う理由で勇者様達には二人一組のルールは伝えない様にしていた。



「今の君たちにはこういう試練も必要だ。それが彼奴と君にとって良い刺激になると考えたからだ。試練を乗り越えれば、更に君たちの愛情は強まる事だろう。」



 正直、戦闘技能以外の事まで面倒を見てもらえるなんて思ってなかった。ここまで気にかけてくれているということは、私たちの関係を大切に思っていてくれているからだと思う。



「彼奴は必ずやってくる。昔から彼奴は困難に直面すると逃げ出す癖がある。だが、それは一時の事であることも私は良く知っている。最後には決意を固めて戻って来るのだよ、どんな時でも。それが彼奴なりの戦い方だ。」


「先生は良くご存じなんですね。彼の強さを。彼の直接の師ではないのに……。」



 私の言葉には特に反応してはくれなかった。ちょっと遠回し過ぎたのかもしれない。こんな事を言ったのは、彼の…先生の正体について、ある確信が芽生え始めたから。ここまで勇者様の事を思いやれる人はあの人以外には考えられなかったから……。



「あの……先生は……もしかして、彼の師の友人なのではなくて……か……、」



 言おうかと戸惑っていたところで、先生は口元に人差し指を添えて、制止した。



「言わないでくれ。その答えは君の胸中にしまっておいてくれ。君の答えはおそらく正解だ。今はまだ正体を明かすときではない。特に彼奴にはまだ知られるわけにはいかんのだよ。」


「そこまで隠さなくても……。私の想像が正しければ、先生はかなり無理をしてらっしゃるのでは……?」



「ハハ、君には敵わないな。君は賢いから私の正体にはすぐに気付くと思っていた。しかし、私の事を気遣ってくれるとはな。私もまだ精進が足りぬようだ。」


「出過ぎた真似をして申し訳ありません……。」


「構わんよ。君のそういう所を私は気に入っている。」



 先生は彼を信じている。彼を昔から知っているから。私も負けないように彼を信じようと思う。それでも……なにか……胸騒ぎのようなものが私の心をざわめかせていた。なにか悪いことでも起きなければいいけれど……。

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