迫るタイムリミット
「あー、もう、なんかヒドい目にあってばっかりだな……。」
みんなと仲違いしてから、しばらく経った。あれから毎晩、謎のジジイに付き合わされ、酒を奢らされる羽目に会っていた。そんなこんなでとうとう、大武会エントリー最終日となってしまった。それでも、相方を見つけられていない。どうする?
「もうなんか、いっそのこと、あのジジイと組むか?自分は強いとかホラ吹いてたけど、とりあえず出場できればいいか……。」
ろくでもないジジイだが、正直、いてくれるだけでもいいかなとは思う。俺一人で敵二人を相手にすればいい。どうせ勇者の力を使うことになるんだ。一人で戦うならちょうどいいハンデになるかもしれない。
「お主……、」
途方に暮れて町中をブラブラしていると、何者かに声をかけられたような気がした。誰だ?独特な二人称からするともしかしたら……?
「勇者ではないか!やはり来ておったのだな!来ると思っておったぞ!」
「あんた……コタロウか!」
侍だった。コイツも来ていたのか。まあ、考えてみれば、ここにいても不自然ではない。性格的に大武会と聞いたら、真っ先に飛び込んできそうな男だ。
「自らの剣を手に入れたのだな?拙者にも見せてくれまいか?」
エドと同じだ。コタロウと侍は似たところがある。共通しているのは強くなることに対して貪欲なところだ。
「まあ、ちょっと変な剣だけどな。」
刃がない事に関してどんな反応をするだろうか?大体は首を傾げるが、エドは他と違う反応だった。刃がないことに対して独自の見解を示していた。
「フム……これは珍妙な……、刃がない剣なぞ聞いたことも、見たこともない。我が故郷に逆刃刀という物が存在する程度だ。」
他の文化圏にも存在しないような剣……この剣は俺の何が影響してこのような形になったのか疑問だ。エドの解釈だとちょっと小っ恥ずかしい感じがする。はたして侍はどう見るのか?
「これはお主の技があれば刃等必要ない、ということを暗示しておるのではないか?お主の技は相手の概念そのものを斬り伏せるのだ。超常的な力を発揮するにはこれ程、合理的な物は存在せぬ。お主のために最適化されておるのだ。素晴らしき機能美だ。」
ここで見解に違いが出たな。技頼り、という部分は同じだが、これを俺の内面によるものと見るか、あくまで機能性によるものと見るかという違いだ。エドの根底には愛情があると思うし、コタロウはどこまでも修羅道を突き進むところに違いが出たのだろう。俺は目指すとすればどっちになるんだろうか?
「剣のことはこれくらいにしておいて、大武会の話をしたいんだけど……。」
「フム、そうであるな。お主も出場するのであろう?」
「そうしたいんだけど……相方がいなくってさあ……。」
「仲間はどうした?姿が見えぬが、どこへ行ったのだ?」
「それがですねえ……、仲違いしちゃって……。」
「……?何があったのだ?そもそもお主には恋人がいたではないか?何故彼女と組まぬのだ?」
俺らの様子を見てたら、普通はそう思うよねえ。ソレがわかってるからこそ、実際に人に言われると辛い……むなしい……。
「それがね、狐面の男にとられちゃってさあ……、こうして途方に暮れているわけ。」
「なんと、狐面の男だと!あの男も出るのか!あの男からはただならぬ気配を感じていた。強者であると一目見たときから思っておったのだ。このような場で一戦交える機会が巡ってこようとは!」
相変わらず、戦闘狂なようで何よりです。俺の相方問題はどこかに吹き飛んでしまった。相方……相方?そういえば、コイツも出場するなら、相方が必要なはずだが?そんなやつはどこにも見当たらない。なら、コイツを誘ってみるしかない!一か八か!




