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ベタな展開?

「最低だ。俺は勇者失格だ。」



 自分が情けないったらなかった。こんな惨めな思いは久し振りだ。ヴァルに負けて、サヨちゃんに拾われた時以来?それ以前なら、破門になったときか。



「今回ばっかりは立ち直るのは無理かな。立ち直る切っ掛けを作ろうにも、今の俺には相方がいない。」



 状況は絶望的だった。組む相手がいない。戻って謝れば済むことなのかというとそうでもない。ミヤコ?いやいや、アイツはそもそも戦闘向きではない。タニシは問題外だ。サヨちゃん?いやいや、俺以上にチートな存在だからアウト。竜帝が人間の競技に参加していいはずがない。そう考えると誰もいないのだ。そういう意味でもエルちゃんを狐面に取られたのは非常に痛い。



「くやしい。狐面は俺をあからさまに煽ってきてる。そりゃそうだろうな。エルちゃんは可愛くて、賢いし。弟子にもしたくなるよなあ。でもあんなオッサンに取られるのは納得できない。なんとかエルちゃんを取り戻さないと。」



 大武会の開催まではあと少しある。それまでになんとか相方を見つけないと。



「ちょいとそこの若いの!」



 町中を当てもなく歩く俺を呼び止める声があった。小柄な長いヒゲが特徴的な老人だった。どこか異国の装束を着ている。黄色の布を多用しているのも独特だ俺の故郷の服装に近い感じだな。でも何か古めかしさを感じる。



「俺?」



 出来れば無視したかった。周りに人はいっぱいいるし。誤魔化そうと思えばいくらでもできるはずだ。一応確認してみた。



「そうそう、あんたじゃよ。」



 残念ながら俺だったようだ。なんとか対応するしかない。赤の他人に付き合うほどの心の余裕はないんだけどな。



「じつは町に来てから財布を落としてしまってのう。おかげで腹はへっとるのに、一文無しではメシにありつけんというワケじゃ。」



 なんてベタな展開だ。金がないから助けてくれとかいうの。同情するなら金をくれ、ってか。



「ちょっとでいいんじゃ。なにか奢ってくれたりはせんかのう?」



 ホラ来た。やっぱり来た!こういう流れになると思ってた。まあしゃーない、意を決して奢ってやるか。勇者なのにケチケチするわけにはいかない。



「わかった、わかった!奢るからさっさと店に入ろうぜ。」



 適当に近くにあった店に入ることにした。どうやら、居酒屋のような酒と食事を提供する店のようだ。



「アレとコレとソレ!あとは酒も適当に頼む!」



 席に着くなり、ジイさんは近くにいた店員を呼び止め手早く注文した。やけに手慣れてやがる。あやしい。



「おいおい!酒なんか頼むなよ!話が違うぞ!メシ食うだけじゃなかったのかよ!」


「まあまあまあ!落ち着け、若いの。少しは老人の話に付き合ってくれてもええじゃろ?それにこういう店で酒を頼まんのは逆に失礼じゃ。」 



 もっともらしいこと言いやがって。はめられた。はめられたのだ、俺は!



「それにアンタ、何か悩んどることでもあるんじゃないかの?」


「んなわけないだろ。別にそんなことないよ。」


「こういうときは素直になるもんじゃぞ。お主の顔に書いてあったぞ。今、悩んでます、とな!」


「……!?」



 ジイさんは俺の顔を見て、自分の長いヒゲをなでながら笑い始めた。なんか見透かされていたようだ。



「まあ、とにかく、酒でも飲もうじゃないか。話はそれからじゃ!」



 突然予期せぬ酒盛りが始まってしまった。これはなかなか帰らせてもらえそうにないぞ。


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