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おとうさん、ありがとう。

「お父さん!」



 葬儀の前に……お別れする前にウチはお父さんと話をする機会をもらった。あのエルって子が死霊術を使えるってことだったので、気を使ってくれた。



「ミヤコ!ミヤコなのかい?」



 ぱっと見でわかってくれないのは正直辛い。それは自分自身が悪い。お父さんは家を出て行く前の地味でダサい格好の自分しか知らないだろうし。



「ウチだよ。本物だよ!……って言っても説得力ないけど。」


「今度は間違えないさ。お前は紛れもなく、ミヤコ本人だよ。」



 ……ウチの偽物に殺されたんだから疑われても仕方ない。これは魔王軍が悪い。



「そんなことより……お父さんはお前に謝らないとといけないことがあるんだ。」


「それはウチの方だよ!」


「いいや、謝らせてくれ。私は親として許されない過ちを犯してしまった。」


「……。」


「私はお前を小さい頃から巫女の後継者としてお母さんと一緒に育ててきた。勇者の剣を守るものとして、勇者様にお仕えする者として恥ずかしくないように。」


「……。」


「ミヤコ、お前はとてもいい子だった。時には厳しく当たったこともあったが、お前はあまり文句を言わず、言うことを聞いてくれた。」


「……。」


「でも、私たち両親はそんなお前に甘えていたんだ。お前が本当はどんな子で本当はどんなことがしたいかなんて考えようともしなかった。見ようともしていなかった。」


「……。」


「その歪みはお母さんが亡くなって、巫女を継承するときに露わになった。あの日、お前は家を飛び出して行った。」


「そして、こんな不良少女になっちゃった。そうでしょ?」


「こらこら。自分から不良少女なんて言うもんじゃない。もっと自分に誇りを持ちなさい。紛れもなく、お前が納得して自分で選んだ道なんだから。」


「……でも、正直みっともないって思ってるんでしょ?お父さんの性格からしたら、こんな格好許せないはずだもん。」


「うーん、確かに正直ちょっとだけ……。特にへそが見えたままになる服装はやめて欲しいかな。」


「ホ~ラ、やっぱり!」



 そこでなぜか笑いがこみ上げてきて、笑ってしまった。お父さんもそれにつられて笑っている。



「お父さん死んでるのになんで元気そうなの?ホントは死んでないんじゃない?」


「そんなことはない。これでも結構無理してるからね。空元気みたいなもんだよ。死ぬっていうのはそういうことなんだ。」


「……そうなんだ。」


「こらこら、泣くんじゃない。お前は笑っている方がかわいいよ。それにそろそろお別れの時間だ。」


「ウソ、もう行っちゃうの?」


「仕方ないじゃないか。あまり長いと、あの魔術師のお嬢さんにご迷惑をお掛けすることになるから。ここでさよならだ。」


「うん。……わかった。」



 涙を拭ってから、精一杯の笑顔を作る。



「これからも自分の好きなように生きて行きなさい。後悔のないように。そして勇者様や仲間の皆さんによろしく言っておいてくれ。特に魔術師のお嬢さんには“ありがとう”と伝えておいて欲しい。ありがとう、私の可愛い娘よ。」


「お父さん!……お母さんにもありがとうって言っておいて!それから……向こうでは夫婦仲良くね!」


「当たり前じゃないか。そうするとも。……じゃあね。」



 その言葉を最後にお父さんの魂は姿を消した。



「おとうさん、ありがとう。」



 もう泣くなって言われたのに涙があふれてきた。このままじゃ一生分泣いてしまいそう。

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