大バカの大嘘つき!
(ドズッ!!!)
「ド、ドス?」
お面のオジサンは魔王に向かって槍を投げた。槍はうまいこと頭に突き刺さった。結構距離があったはずなのに……すごい!
「狐さん、次はジェイに任せて欲しいニャ!」
「追撃を頼む!」
猫のオジサンは凄い速さで魔王に向かっていった。
「だ、誰だ?こんな大それた事をするヤツはぁ!……ブゴッ!?」
跳び蹴り!猫のオジサンは槍に怒る魔王の横から思いっきり蹴りつけた。
「うちの子とタニシ君に悪いことしたから、お仕置きするニャ!」
そのまま魔王はボコボコと殴られたり、蹴られたりしている。その一方で、勇者を掴んでいた腕の拘束が緩んだ。勇者はずるずるとすり抜け、地面に倒れ込んだ。宙に浮いた魔王の腕は思い出したかのように本体の方へと戻っていった。
「魔王はオジサンたちに任せて、ウチはゆーしゃをなんとかしないと!」
遠目に見ても、かなりの大怪我をしているのがわかる。早くしないと手遅れになる。急いで勇者のところまで走った。
「ゆーしゃ!この大嘘つき!」
勇者を抱き起こして、ヒーリングの魔法をかける。ありったけの魔力を込めて。魔法自体、使うのは久し振りだから勇者の傷が治りきるかわからない。だから全力で!
「勝つって言ったじゃない!負けないからって言ったのに……。ホントは勝てないのに無理しちゃって、なんでこんなにバカなの!」
こんなに言ってるのに勇者は目を覚まさない。眠っているみたいだった。でも、そうじゃない。そのまま寝てたら、一生目を覚ませなくなる。だから絶対に起こさないといけない!
「起きないと絶対許さないから!約束守らなかったらタダではすまさない!だから……起きろ!ウソつきゆうしゃぁ!!!」
極限まで高めた癒やしの光が周囲を埋め尽くしていた。勇者の顔がよく見えないくらいだった。……でも、勇者の顔が少しピクっ、て動いたような気がする?
「……おいおい、やめてくれよ。耳元でバカとか、ウソつきとか言うなよ。ショックで死にかけたじゃねえか。」
勇者は引きつった顔で笑っていた。目を覚ました!助かったんだ。
「ホントの事じゃん!ウチは嘘を言ってない!大バカの大嘘つき!」
「でも、一人で勝つとは一言も言ってないぜ。俺が倒れても、魔王をフルボッコにしておけば、後からみんなが倒してくれると思ったんだよ。要は勝てばいいんだ。みんなで。」
「バカ!そういうのをウソつきっていうんだよ、詐欺師のゆーしゃっ!!」
「今度は詐欺師呼ばわりかよ!俺の肩書きが増えちまったじゃねえか。」
そこで我に返った。遠くで戦っているオジサン達が魔王に苦戦しているのが見えたからだ。早く加勢しないと……。
「マズい。こんなことしてるヒマじゃねえや。狐と猫までやられたら、俺が魔王に手傷を負わせた意味がなくなる!」
勇者は起き上がり、魔王のいる方向を見定めた。今にも飛び出していきそうだ。
「待って!丸腰で何するつもり?」
「何って?武器はなくとも戦うんだよ。」
「バカ!コレを持ってけ!」
カバンから剣を取り出して、前に差し出した。
「おい、……これってまさか!?」
「アンタの剣だよ!ゆーしゃの剣!」
「作ってくれたのか?でも材料はなくなったんじゃ?」
勇者は剣を手に取り、それをまじまじと見つめている。ちょっと変わった形をしているのが気になるのかもしれない。
「そんなことはいいから!早く行ってこい!」
言われた勇者は魔王に向き直って、ウチに背中を向けた。
「ありがとうな!」
一言残して、勇者は加勢しに行った。……でも、お礼言うなら相手の顔をちゃんと見ろ!この大バカ勇者!




