堰壁背水陣
「気付けにいっぱぁぁぁつ!」
気付けの一撃……、おそらくあのタイガーなんとかっていう、腕が伸びる技だ。反撃ならあの技しかない。堰壁背水陣で目一杯威力を増幅させてやる。
「き、消え……何ィ!?」
「空隙の陣!」
(バヅン!!!)
魔王の片腕、肘から先の部分が宙を舞う。俺は背後に回り込みつつ、腕を切り落とした。休む間は与えない。
「有隙の征!」
相手の隙を作るべく、絶え間なく攻撃を差し込む。
「ぐうおああ!死に損ないのヤツのどこにこんな力がぁ!!」
片腕だけで必死になって俺の攻撃を防いでいる。こうも攻撃が続けば再生する暇もないらしい。狙い通りだ。
「峨龍滅睛!」
ここでいきなり動きを変えて、頭上から不意打ちする。前は防がれてしまった技だが……、
「ギニャアアアァ!!!」
魔王はありったけの絶叫を上げた。技の名の如く(滅睛:瞳を滅すの意)、左目をまぶたごと切り裂いた。当然だ。
「凰留撃!」
魔王の目前に着地し、目を押さえている、残った方の腕を下からまくり上げるように切り飛ばす。
「ぐうあああぁ!!」
魔王はたまらず膝をついて痛みに耐えている。多大な隙ができた。やるなら今しかない。あの技で決めるしかない。
「虚心坦懐……絶空!……八刃!!!」
相手のコアを真っ二つにする思いで斬りつける。邪悪な力をより明確に認識し、それを断ち切る。
(ゴッ……!!)
刃に何か硬い物が当たる感触がした。でも構わない。そのまま斬る!
(ピッ……!)
半ばまで斬ったところで、手に嫌な感触を感じた。そう……剣が折れた時の感触に近いと感じた。
(刀が悲鳴を上げているんだ!でも、なんとか持ちこたえてくれ!あと少しなんだ!)
いきなり斬る感触が消失した。まだ、切り終わっていないのに……、
(パキィィィッ!!!)
折れた。願いは届かなかった。あと少しというところで。望みが絶たれた。
「ぎょわあああああああああああっ!!!!」
絶命には至らないとはいえ、本体のコアを切り裂かれたのだ。魔王は想像を絶する程の痛みを味わっているに違いない。
「ここでさすがに運が尽きてしまったか……。」
刀だけじゃない。俺の体力も限界に来ていた。負傷したままではさすがに持たない。
(倒せなかったけど、十分時間稼ぎはできた。タニシ達も無事だろう。あとは誰かが魔王に止めを刺してくれるさ……。)
視界が霞んできた。もうすぐ意識が無くなりそうだ。
(ガシイィ!!)
突然、体を掴まれた。切り落とした魔王の腕が俺を両側から掴んでいる。
「グヒヒィ!この野郎!ただでは済まさんぜ!ただではなぁ!!」
離れたところにいる魔王は口から血の泡を吹きながら、こちらを睨んでいる。弱ってはいるが、今の俺を倒すぐらいはできるのだろう。
「さあて、どうやって…ブチ殺すかなあ?八つ裂き、細切れにしてグチャグチャの肉塊にしてやんよ!」
やだなあ。そんな姿に……なっちゃったら…エルちゃんが悲しむじゃ…ないか。まったく…ブサメンなのに…さらにヒドい……ことに……。
「一0八計が一つ!……鶴刺一閃!!」
あ、あれ……この声、どこかで……、




