剣に願いを
「ばれてしまったのなら仕方ないわ。今回はおとなしく引き上げてあげるわ!」
「逃げるだと!仲間を放っておいてもいいのか?」
「仲間?そんな間柄ではないわよ。私たちは。助ける義理はあっても、義務はないもの。」
豹変したエシャロットさんはその場から離れようとしていた。でも、未だにお面のオジサンの言っていることが信じられない。これはただの演技だと思いたい。
「それに私の目的は果たしたから、関係ないのよ。後は彼がやりたいようにやるでしょう。最後に一つ……、」
エシャロットさんは私の方を向いた。今まで見たことがないくらい恐い顔をしている。
「ミャーコ、勇者などについていかない方が身のためよ。利用されるだけよ。あなたの利用価値がなくなったら捨てられるわよ、確実に。思い直したら、いつでもいらっしゃい。私は待っているわ!」
「戯れ言を!」
お面の人が槍を突き出し、エシャロットさんを殺そうとする!でも槍は空を斬り、彼女は姿を消してしまった。転移魔法だ。そんな大魔法を使えるなんて……。
「逃がしてしまったか。やれやれ。」
「あの、アンタは……、」
「私のことよりも剣の事、勇者の事を気にかけた方が良いのではないかね?」
「それは……そうだけど……、」
「急ぎ給え。時間はあまりない。あの男が負けるとは思えんが、何らかの被害が出てしまうかもしれん。」
オジサンの好意に甘えて剣を探しに向かうことにした。急がないといけない。でも、一言だけ……、
「オジサン!よくわかんないけど、ありがとうね!」
「気にするな。」
宿の中を駆け上がっていくと、そこら中に物が置き去りになっていた。魔王が来たという話を聞いてみんなパニックになったのかもしれない。
「あった!」
ワンちゃんが念のために部屋番号を教えてくれていたので、すぐに見つかった。でも、床に置きっぱだった。ぞんざいに扱われてる。やっぱり子猫が玩具にしてたから?そのままにされてしまったんだろう。剣は私と共鳴して光り輝いている。剣を拾い上げ、意識を集中する。
「勇者の剣よ!巫女の言葉に耳を傾け給え!」
剣は微かに振動して言葉に反応している。そのまま、儀式を行う準備をした。初めての事だけど、生まれたときから何回も練習させられたので体が覚えている。
「剣よ!今生の勇者の手足、一部となるために姿を変えよ!新たなる姿に生まれ変わり給え!」
剣は輝きを更に強めて見えなくなるくらいになった。剣が振るえて、動いているのが手を通して伝わってくる。今、この瞬間、生まれ変わっているんだ。
「私は生まれ変わって、やり直せないけど、アンタは生まれ変わって勇者の役に立つんだよ!」
精一杯の願いを込めて、剣を作り替える。私の代わりにがんばって欲しい。私は生まれ変われないから……。




