勇者、決意する。
「無理だ。絶対。出来っこねえよ。」
師父のかつての言葉を思い出しながら、ロアは絶望に打ちひしがれていた。
「いつかじゃだめなんだ。今じゃなきゃ。」
いつかは到達できるかもしれない。いつかではダメだ。近い内に自分は殺される、ヴァル・ムングに。到達する前に自分の全てが終わってしまう。
「逃げ出そう。」
何処へ?逃げ出したところで、いずれは見つかってしまうだろう。あいつはありとあらゆる手段で自分を見付け出すだろう。何処に居ようが一緒だ。
「ここにおったか。」
ロアはその声に振り向かなかった。誰なのかはわかっていた。自分の心を覗き見た女だ。
「謝って済む問題だとは思っておらぬ。そなたの心を踏みにじった事には代わりがないからの。」
少女は心底申し訳なさそうに言う。自分のしてしまったことを悔いているのは、十分に伝わってきた。だが、ロアは振り向かなかった。
「じゃが、そのままでも良いから聞いてほしい。あくまでこれは妾の独り言じゃ。」
何を話すと言うのだろう。そうしたどころで事態は好転しない。
「そなたは破門にされたのかもしれん。だが、それはそなたの師から破門にされた訳ではなかろう?そなたの信じている師とはかけ離れた者共から体の良い形で追放されただけであろう?」
確かにそうなのかもしれない。だが、
「そなたはこのままで良いのか?師が亡き者となってしまった今、師が正しかったと代わりに証明するのは、そなたの役目ではないのか?」
役目だったとしても、それは自分にはできない。
「今までそなたが培ってきた物はまやかしじゃったのか?そうではなかろう。現に、仲間の危機を救って見せたではないか。それは真のことであろうが!」
確かにそうだ。偽物とはいえ竜帝を倒して見せた。これは紛れもない事実だ。
「そなたの経験はその身に刻み込まれておる。そなた自身の血と骨になったも同然じゃ。」
とはいえ、それがどうだと言うのだろう。
「今から話すことは、あくまで可能性の話じゃ。あの技は少なくとも基本技、八刃剣を極めておれば出来るのじゃ。あれはそういう技なのじゃ。」
八刃剣?確かに今は全て使いこなせる。あの技は使おうとしたことすらない。出来るとも思ってはいないからだ。
「今のそなたなら出来る。確かにあの技は全てを極めてこそ真価を発揮できる。じゃが不完全な形でも十分な強さがあるんじゃ。」
何故、そんなことが言えるのだろう。
「妾はあの技を理論的に構築し、解析してみた。驚いたぞ。あれは武芸の域を越えておる。魔術の目指す万物の根源に近い。あれは言うなれば、多次元殺法じゃ。切れぬものはない。例え、竜の鱗、ドラゴン・スケイルであろうと。」
ドラゴン・スケイル、ヴァルが使った防護障壁のことだろう。
「わかった。あんたの言うことはいまいち理解できねえが、やつを切れるって言うんならためしてみるさ。師父の目指した真髄をやつに見せつけてやる!」
ロアは振り返り、サヨに宣言した。技の誇りを、師父の誇りを見せ付けてみせると。




