まるで悪魔みたい……。
「あの宿は確か、この辺に……、」
剣が宿に置いてあることを聞いて、探しにやってきた。自分が推薦した宿だから、場所は良く知っている。このことがまさか自分の助けになるだなんて、思いもしなかった。
「あった!ここだ!」
避難で人気のなくなった宿に入っていこうとした。その宿の前に自分が尊敬する、あの人がいた。
「ミャーコちゃん。どうしたの?そんなに慌てて?」
「エシャロットさん!どうしてここに?」
不思議だった。朝方会ったときは、この町を離れるといって去って行ったのに。
「どうしてって……、何か楽しいことが起きているからよ。決まってるじゃない。揉め事に顔を出さないなんて、私らしくないでしょう?」
「そうだよね……そうですよね。こんな事件なんて滅多に起きないですし……。」
世の中の問題には積極的に突っ込んでいく!というのがエシャロットさんの信念だった。犯人扱いされるリスクなんて物ともしないはず。
「あなたの方こそ、何をしているのかしら?町から離れた方がいいと忠告したはずよ?」
確かに言われた。でも私は胸騒ぎがして、自分の意志でこの町に残った。そしたら、大変なことがあった。
「今からでも遅くはないわ。逃げなさい。今すぐこの町を離れなさい。……でないと、さらに辛い思いをすることになるわよ?」
さらに?どうして、この人が私が辛い思いをしたことを知っているんだろう?おかしい。でも……そんなことない。疑うのは失礼。エシャロットさんは何でもお見通しなんだ。私にとっては“神”も同然なんだから。
「私は自分の役割を果たそうと思って……、」
「役割?そんなものを果たしてどうするの?あなたは自分の道を進むべきよ。そんなしがらみなんて捨てて自由に生きるべきよ。そうでなければ、あなたは利用される。あなたをあなたとして見てくれない人々なんて救う必要なんてないわ。」
「何を言ってるんですか……?」
恐い。この人は怖いことを言っている。自分の主義を通すために人の命はどうでもいいって言うの?そんなの……違う……違う気がする!
「信念という物は貫き通さないと意味が無いのよ?自分を捨ててまで人を助けるだなんて、愚かなことよ?今からでも遅くはないわ。考え直しなさい?」
エシャロットさんは私の目をのぞき込むように、強い視線を送ってきている。でも……なんでだろう?カエルを睨み付けるヘビの目みたいに見える。彼女の目が。
「わ、私は……、」
怖かった。体の震えが止まらない。歯がカチカチ鳴ってる。恐いよ!誰か助けて!
(ドスッ!!!)
私たちの間に割って入ってきたのは、一本の槍だった。私はそこで我に返った。体の硬直が解けて、その場から少し離れた。
「誰?私の邪魔をする不遜の輩は!」
「……フ、不遜の輩とはよく言ったものだ。それは貴女の方ではないのかな?」
向かいの建物の屋根の上にその声の主はいた!あれは……狐のお面の人だ!確か、この前勇者と一緒にダンジョンにいた人だ!その人はそのまま音を立てずに地面へと降り立った。
「邪魔はさせない。私の友人の弟子を死なせるわけにはいかないのでね。」
「あなたの方こそ邪魔ではないの?この子の自由を奪うつもり?」
「自由を奪う?それは貴女がしようとしていたことだろう?……いい加減にしないか!蛇の魔王!」
「蛇?魔王?」
意味がわからなかった。確かにさっきはエシャロットさんが蛇に見えたのは間違いないけど、それはあくまで例えなだけで……、
「何をおっしゃるのかしら?」
「とぼけるな!私の目は誤魔化せない。うまく擬態しているが、邪悪な気配を隠しきれてはいない。」
「あははははは!」
エシャロットさんは狂ったように笑い始めた。まるで悪魔みたい……。




