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心臓がバクバクする

「あっちゃあ!……もしかして、見られてたか?」



 みんなと合流するため、神殿へ戻ろうとしたところ、速攻でエルちゃんと出くわしてしまった。アイツとの会話内容、特にそのまま逃がすような対処をしてしまったことは秘密にしておきたかったのに。



「ごめんなさい。見てました。」



 彼女は申し訳なそうな態度を取っているが、何かいたずらでもしたかのような感じでもあった。



「どうしても、心配で。勇者様のことだけじゃなくて、ミヤコちゃんのことも気になっちゃって……。」



 俺だけじゃなくて、アイツのこともか。エルちゃんらしいな。



「じつは言うと……最初は私が彼女と話をしようと思ってました。私も彼女と立場が似てるなあと思って。」



 エルちゃんの過去はデーモン・コアの件で故郷が大変なことになって、彼女が殺処分されそうになったことくらいしか知らない。



「私も魔術師の家系……グランテ家の出身で、代々長女が当主を引き継ぐ習わしになっているんです。母も当主になりましたけど、私が小さい頃に亡くなりました。そういうこともあって、私が成人になったら、引き継ぐということになっていました。」



 牛頭の魔王の悪あがきのせいで、若くして亡くなったエルちゃんのお母さん。そして、エルちゃんは当主を引き継ぐはず……だった。あの事件が起きなければ。



「勇者様もご存じの通り、私は拉致されてしまったので引き継ぐことが出来ませんでした。今は多分、母の妹…私の叔母が引き継いでいると思います。私が成人するまでの間の仮の当主になっていましたから。」



 エルちゃんの実家も色々しきたりとか大変そうだ。色々勉強しないといけないだろうし、周りからのプレッシャーもすごいんだろうな。



「前置きは長くなりましたけど、似た立場なので彼女の力になれたらなあと思ったんです。私は結果として家を離れることにはなってしまったので、説得力に欠けるかなあと同時に感じてしまったので、ちょっと尻込みしてしまったんです。」



 ミヤコの心境なら、エルちゃんと立場が違うことを理由に話を聞いてくれなくなる可能性はあったかもしれない。あくまでも可能性だけなので何とも言えないが……。



「それで積極的になれずに様子を見ていたら……、」



 俺はそこでちょっとドキッとした。俺の行動は間違っていたのか、それとも……、



「勇者様が話している事の方が私よりも全然立派だったので、私は出て行かない方がいいかなと思ってしまって。不器用な話し方だったとは思いますけど、勇者様が一生懸命にミヤコちゃんのことを考えていてくれているのがわかって嬉しくなってしまいました。」



 えっ、えっ!それどういうこと?俺の対応は正解だったってこといいの?それに……り、立派?立派なんかな俺?



「でも、正直に言いますけど、ミヤコちゃんがうらやましかったです。私もあんなこと言って貰いたかったです!」


「え、ああ、うん?そうなの?」


「これでまた、勇者様のことが更に好きになってしまいました。……待ってますよ、私。」


「ええ?な、何を?」


「言いませんよ。そんなこと私に言わせるんですか?自分で考えて下さい。」


「えええ!?」



 エルちゃんは心底嬉しそうな顔で神殿の方へと歩き始めた。俺は戸惑い動揺しつつも、その後を付いていった。なんかすごい、心臓がバクバクする……。

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