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うまいこと生きて行けよ

「あっちゃあ。ここにいたか。」



 町を歩き回っていたら見つけてしまった。それほど、積極的に見つけようとは思ってなかった。彼女に会うと変にプレッシャーを与えてしまうと思ったからだ。だから、見つけてしまったとしても、そっとしておこうと考えていた。でも、この後の戦いに向けての作戦を考えつつ、探すふりをして歩いていた矢先、彼女に出くわした。



「……何しに来たの?」



 ミヤコは俺に対して敵意を持った視線を向けている。多分、剣の事で説得しに来たと思っているのだろう。そう思われても無理はない。



「剣がいるんでしょ。ウチの力が必要だから、説得しに来たんでしょ?……ウチ自身じゃなくて、巫女の力がいるだけなんでしょ?」


「違う。と言いたいところだけど、……正直言うと半分くらいは剣の事は考えてた。」


「あ、そう。」



 彼女はやっぱりと言いたげな態度を取った。



「でも、ウソは言ってないんだね。わかるよ。だって、ウチの目を見てちゃんと話してるもん。」



 ここで嘘を言ったら、彼女を傷付けてしまうかもしれないと思ったからだ。彼女を見つけてしまったからには、キチンと真正面から向き合って話そうと思った。



「じゃあ、聞くけど、後の半分は何?」



 後の半分、もう一つの本音。彼女に言いたいことがある。立場は違うかもしれないが、俺も勇者という立場を持っている。使命について、色々思うことはある。



「あのさ……俺って実は勇者になったのは成り行きだったんだよね。なんていうか、なりたいからなったわけじゃないんだ。」


「なにそれ?……急に自分語り?」



 彼女は呆れたような素振りを見せ、ため息をついた。



「ゴメン。ダメだったかな?」


「……別にいいよ。あとは話の内容次第。」



 しれっとプレッシャーをかけられた。「話つまらないと切るよ?」と言われているようなもんだ。



「続けるよ。ある日突然先代から引き継いじゃって、命を狙われて。挙げ句の果てには、竜帝討伐に参加させられたりしたわけよ。」


「……それで?」



 続きを促される。一応まだ聞く気にはなってくれてるみたいだ。



「まあ、そんなモンだから、とにかく隙あらば逃げだそうなんてことも考えた。」


「……でも、なんで逃げなかったの?」


「逃げなかった?……いやあ、なんていうか逃げ損ねたんだよね。恥ずかしいことだけど、俺って昔っから、ドンクサくってさあ。いっつも、何かしようとしても、すぐ失敗しちゃうんだよなあ。」


「……なにそれ?バカみたい。」



 彼女はクスッと笑った。笑われるよなあ、普通。こんな情けない身の上話してんだからなあ。



「それでも、不思議と死なずに、勇者を辞めずに生きて来れた。今まで生きてきた経験とかの蓄積だけでさ、なんとかなったんだ。才能とか血統とかそういうの全くなかったんだけど。」


「……。」



 俺と彼女では決定的な違いがある。彼女は巫女の家系で色々引き継いでるだろうけど、俺には全くそういうのは全くない。だからこそ、破門されたりした。



「自分には何もなくても今まで生きてきた経験、痛いこと、悲しいこと、辛いこと、失敗したこと。あとは楽しかったこととか、そういうのが血とか骨とかになって今の自分が成り立っている。それを使えば何者にも勝る力になるってわかったんだよ。」


「……。」


「……まあ、なんていうか、教えられたんだよ、サヨちゃんに。俺は救われたんだよ、その言葉に。」


「……へえ、そうなんだ。あのロリっ子も結構いいこと言うじゃん。」



 そのとき、彼女の目に少し輝きが戻ったような気がした。言動はぶっきら棒だが、真剣に聞いてくれていることには間違いない。



「自分語りは終わり!次はお前自身の話だ!」


「……人のこと、お前って言う人、ウチは嫌い。」


「ああ……、ご、ゴメン。」



 しまった!機嫌を損ねてしまった。凄い不機嫌そうな顔で俺を見ている。



「君は使命から逃げられる状況にある。いいじゃないか。別に悪いことじゃない。人生に選択の権利があるんだ。俺なんて自分の意志とは関係無しに、破門されたり、勇者を引き継がされたりしたんだぜ?それに比べれば、君は恵まれてるじゃないか。」


「……でも、ウチが巫女にならないと、人がいっぱい死ぬよ?」

 


 やっぱり、この子は自分の置かれている状況を理解してるじゃないか。決して自分本位な人間じゃない。


「いや、死なないね!」


「でも、死ぬじゃん。魔王に勝てないじゃん。」


「死なせないし、俺自身も絶対死なない!」


「……は?何言ってんの?死ぬよ?頭おかしいの?根拠はあるの?」


「根拠はある!」


「……それは何?」


「それは……俺が勇者だからだ!」


「……バカじゃないの?」


「うん!バカだぜ!正真正銘のな!」



 もういい!俺はバカだ。世界一のバカだ!



「剣なんかなくても、俺が魔王を倒しさえすれば問題ない!子猫も助かるし、町のみんなも死ぬことはない!俺がなんとかすりゃあいいんだ!」


「そんなことできんの?無理に決まってるじゃん!」


「できる!……いや、やるんだ。絶対に!」


「ただのバカじゃん……。」


「だから、君は好きにすればいいんだ。俺がなんとかするから!」


「いや、無理でしょ?本気で言ってんの?」


「ああ。約束しよう。必ず勝つと!」

 


 俺は彼女に握手を求めた。なんかこんなことをしているとエドみたいになってしまうな。俺はイケメンじゃないけど。



「もう……知らない。勝手にすればいいじゃん……。」



 彼女は握手には応じなかった。顔を背けて手を払われた。俺を否定したというよりは、バカには付き合ってられないという風に感じる。俺がそう思いたいだけかもしれんが。



「じゃあね。ウチは行くから。」


「また、会えるか?」


「知らない。アンタが死ぬから会えないんじゃない?」


「いやいや!死なないから!」


「……バカじゃないの。」



 彼女は踵を返し俺の元から走り去っていった。気のせいかもしれないけど、彼女は少し笑っているように見えた。



「うまいこと生きて行けよ。」



 すでに彼女の背中は遠くなっていたので聞こえはしないだろうけど、これからの彼女の人生を祝福した。さて……俺は俺で解決しないといけない問題があるし、みんなのところに戻るとするか。

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