勇者、激昂。
事態は深刻であった。ヴァル・ムングがロアの行方を追っているのは間違いなかった。周囲ををしらみ潰しに探っているのだという。
「この場所が見つかるのは、時間の問題じゃな。」
報告を受けた、サヨは事態を重く受け止め、目を閉じて、思考を巡らしているようだった。
「ヤバイな。怪我も治っていないっていうのに。それに……。」
怪我が治っていないどころか、剣が折られてしまったため、武器がない。ロアは重大な事に気付いてしまった。今の状態では成す術がない。とはいえ剣があったとしても対抗手段がない。ある意味お手上げの状況であるのは確かだ。
「怪我や武器はなんとでもなろう。だが、あやつめを倒すための準備はあともう少し必要なのじゃがな。」
準備?準備とは何のことを言っているのか。ロアには皆目検討がつかない。むしろ、怪我や剣の心配をした方がいいのではと思った。
「準備?準備って何をするんだ?あいつに対しての対抗手段なんてあるのか?」
正直に疑問をぶつけてみた。とりあえず、打開策とやらを聞いてみないことには始まらない。
「対抗手段とは……、そなたじゃ。」
サヨはロアを指差していた。
「そなたの記憶を覗かせてもらった言ったであろう?そなた自身は気付いてはおらぬが、十分あやつに対抗できる。」
対抗できる?冗談にしか聞こえなかった。全力を出していないヴァルにさえ、敵わなかったのだから。記憶を見たぐらいで何故そういう発想に至ったのか?
「もしかして、勇者の力のことを言ってる?……それだったらあてにしないほうがいいぜ。俺は先代から引き継いだばっかりなんだ。一人前どころか半人前ですらないんだぜ。」
勇者の技ですらろくに使いこなせていない。むしろ、ヴァルのほうが勇者の技を使いこなしていた。
「勇者の力……、そちらもあてにしていないわけではないが、そなたの言う通り、使いこなすには時間がかかるじゃろうな。」
勇者の力でないとしたら、あとは何が残るのか。
「そなた、本当に気付いておらぬのじゃな。そなたが今まで培ってきた物があるじゃろう?」
それは、まさか!
「流派、梁山泊……?」
「それじゃ!それならあやつに対抗できる。勇者の力に匹敵する、いやそれどころか、技の面でだけでいえば、遥かに凌駕しておる!」
心外だった。そこまでの力があるとは到底思えない。勇者の技同様通用しなかった。
「そなた、究極奥義のことを覚えておるか?凄皇八刃のことを。」
まさか、他人の口から、その名を聞くとは思わなかった。これは秘伝中の秘伝、この技について知っているのは、梁山泊の中でもごく限られた人間しか知らない。
「無理だぜ。俺みたいな半端もんにはな。俺は破門になったんだぜ。俺は不適合者なんだよ。」
「そなた、まだ気にしておったのか?」
「あんた、そこまで見たのかよ!」
ロアの心には怒りが沸々と沸いてきた。一番人に見られたくない部分を見られてしまったのだ。
「すまぬ。それは覗いたというより、見えてしまったのじゃ。余りにもその思念が強かった故にな。」
「言い訳なんてするんじゃねえよ!人の心のなかに土足で入り込みやがって!」
ロアは怒りをサヨに向けて叩きつけた。そして、ロアは立ち上がり部屋をでていこうとしていた。
「どこへいくのじゃ?」
「知るかよ!あとは知らねえ!もうあとは勝手にあんたらだけで何とかしろよ!」
行くあても何もなく、駆け出した。




