伝説のインフルエンサー
「ごめんなさい!ちょっと遅れちゃいました!」
待ち合わせの場所は剣の丘の神殿付近。ウチはある人に会うためにソード・ランにやってきた。偶然、知ってる人に会っちゃったから、少し時間に遅れてしまったんだ。
「いいわよ、ミャーコちゃん。ほんの少しだけだから。」
ウチの憧れの人、エシャロットさん。今大人気のインフルエンサーでウチの師匠で恩人だ。
「むしろ、わざわざ来てもらってありがたいわ。故郷とはいえ、あまり来たくはなかったでしょうに。」
「いえ、大丈夫です!エシャロットさんのためならなんでもしますから!」
「ありがとう。そこまでしてもらえて、光栄だわ。」
恩人のためなら、いくらでも体を張れる。悩んでいたウチを救い出してくれた。その恩に報いるためなら、なんだってやる。
「なんでこんなところにしたんですか?都会二比べたら、古臭くて何も魅力がないところですよ?」
「そんなことないわ。伝説の遺物があるというだけでも十分値打ちがあるわ。本当に何もないところには価値はないもの。」
エシャロットさんは剣の丘の裏側に迫る、という名目で今回取材をすることにしたそう。一見、魅力に欠ける物でも、この人の手にかかれば、大いにバズること間違いなし!なにか魔法がかかったように魅力的になるんだ。ウチもそんなところに魅力を感じて、弟子にしてもらった。
「じゃあ、早速案内して貰おうかしら?一晩とはいえ、色々やることはあるからね。」
「はい!ウチに任せてください!」
有名な遺物があるということで、夜間の警備体制もかなり厳重になってる。勇者王の剣は大きいから盗まれることはないだろうし、盗もうなんて考える人もいない。それなのに無駄に人工を割いている。昔からウチはずっと疑問に感じてた。こんな価値のない物に無駄なことをして何になるんだろう。
「ふふ。噂通りの厳重さね。これで捕まっても別の意味でバズるわね。」
「それ、バズるんじゃなくて、炎上するっていうのでは?」
エシャロットさんはただのインフルエンサーじゃない。いわゆる義賊的なこともやっていて、悪いセレブや汚職してる役人達を暴くなんて事もやってる。影のヒーローで必要悪的な存在だ。
「ではいいかしら?手筈はこの前説明したとおり。アナタは中に入るための手伝いをしてくれるだけでいいから。」
「はい。でも本当に大丈夫ですか?ウチに出来ることがあれば、何でも言ってください。」
ウチは神殿の身内だから、中には容易に入ることが出来る。関係者というか一族の人間じゃないと開かない扉がある。でもそういうのは一カ所しかない。要はそこさえ突破できれば、誰でも入れる。関係者じゃないエシャロットさんでも入れるようになる。
「気持ちだけでも頂いておくわ。私一人でも大丈夫。信じていて。必ず成功させてみせるわ。」
「じゃあ行きます。扉を開けますよ。」
厳重にしてはいても隙がある。この扉は特定の人間にしか開けることは出来ないから。そのため、ここだけ手薄になっている。エシャロットさんが裏側を暴けば、警備の無駄とかが知れ渡ることになると思う。この行為は大きな一歩なんだ。世界にとっても、自分にとっても……。