これ、詰んだんじゃね?
「巫女がいない!?」
意味がわからない。勇者の剣を作る役割の人がいない?何があったっていうんだ?
「はい。誠に申し上げにくいことなのですが……後継者がいないのです。」
「そんな……。」
思えば、勇者にしたって、うまく存続できたのが奇跡的なのかもしれない。俺がたまたま、死の間際のカレルにめぐりあっただけなのかもしれない。運命だとは勇者王も言っていたが、それがたまたまうまくいかないこともあるんだろう。
「でも、何で後継者がいないんすか?」
「巫女は我がヒーラジーロ一族から選出されます。巫女の候補が継承を拒否したのです。」
「拒否?なんで?」
「わかりません。彼女の胸中は知る術もありません。」
「で、その子はどこにいるの?」
なんとか説得してみたい。本人に理由を聞いてみないことには話は始まらない。
「それが……ある日、失踪してしまったのです。そのため、現在は行方知れずです。」
「し、失踪!?」
目の前が真っ暗になるような思いだ。ここまでやってきたのに、剣を作る望みが完全に絶たれてしまった。行方不明になっていて、おまけに突然の家出なだけに行き先の手掛かりすらなさそうだ。
「彼女は私の一人娘なのです。先代は私の妻が務めていました。しかし、二年程前に病で急逝しました。その後、娘が後を継ぐはずだったのですが、突然失踪してしまったのです。それ以来、剣の巫女は不在となっています。」
「……。」
ショックで声が出なかった。先代が既に亡くなっている上に、後継者が行方不明だ。これではどうしようもない。
「あの娘の親である私の責任です。申し訳ありません。」
「いや……ディーゲさんが悪いワケじゃないでしょう。失踪した子に理由を聞いてみないことにはわかりようがないっすよ。」
本当にそうとしか言えなかった。後を継ぎたくなかった理由は本人にしかわからないんだから。
「まあ、しかたないっすね。一回出直してきます。仲間と相談して、どうするか決めようと思います。」
俺はディーゲさんに背を向けて、神殿を後にした。このまま、うなだれているよりは何か行動をした方がいいと思ったから。