今が絶好のチャンス!!
「勇者ですと?」
再び会議室にはどよめきが起こった。互いに顔を見合わせたり、円卓を拳で殴りつける方もいる。
「それは誠ですか?勇者ごときにそのような行為が行えるとは到底思えぬのですが?」
この場のほとんどはそういう認識なのだと思う。古来から我々と勇者はぶつかり合う運命だったが、今までその様な能力を持っていたことはない。楯突いているとはいえ、所詮は人間の範疇を超える者はいなかったのだ。
「まさか、今の勇者とは……、もしや、あの竜食いとかいう者なのではないですか?」
近年、要注意人物として上がっている人間だ。自称“千年に一人の英雄”で竜帝を倒したという。しかし、大半の方々は脅威認定していない。噂では血の呪法を復活させたり、邪竜と手を組んでいるとも言われている。私自身は危惧しているのだが、誰も私の話を鼻で笑う方ばかりである。
「ああ、そういえば、そんな奴もいたねえ。でも違うんだよ。……今の勇者は東方出身らしいね?そんな奴がいたなんて、僕もノーマークだったよ。」
我々は東方の人間とは長らく戦っていない。古代に敵対した記録は残っているが、それ以降は全くと言っても良かった。あまりにも戦いがなかったからか、東方では我々が守り神として崇められている、とも聞いたことがある。
「そんなこと、どうだっていい!とにかくブチ殺しちまえば関係ねえ!キング、俺に勇者を殺らせてくれ!」
「君がやるのかい、虎君?」
キングは楽しそうにティーグ殿の方を見ている。ゴズ殿の仇討ちを自ら申し出た彼に興味津々のご様子だ。
「ティーグ、無策のまま勇者討伐に赴くつもりか?たとえお前でも返り討ちに遭う危険はある。」
ギャロ様は慎重な姿勢のようだ。常に思慮深く、綿密に事を運ぶ。その姿勢には私も強く共感を感じる。
「まあまあ、馬君。虎君がああ言っているんだ。やらせてあげなよ。それに彼は牛君と仲がよかったからね。いいじゃないか、仇討ちぐらい。」
「しかし、キング!」
「無策なのが問題なんだろ?策は無くとも、実は今が絶好のチャンスでもあるんだよ?……ねえ、蛇君?」
キングはシャロット殿に発言を促した。彼女は魔王軍において諜報活動を担当している。キングがご存じであるということは、既に報告済みの情報なのだろう。一体、どのような情報なのだろうか?
「では、皆様に情報を開示致します。調査によると今現在、勇者は剣を不所持であるということです。つい先日、ノウザン・ウェルでの戦いに於いて、剣を破損した模様。」
勇者が剣を破損?勇者の剣は我々魔王にとって最も忌むべき存在だ。勇者を勇者たらしめている物ともいえる。剣との相乗効果で人間とは思えないほどの力を発揮する場面を幾度となく目にしてきた。
「なんだと!今が奴等を潰す絶好の機会じゃねえか!今はどこにいやがるんだ?」
剣があれば強いと言えるが、無ければ意外と脆い側面もあるようだ。特に勇者の代替わりが間もない段階では、自分専用の剣を持っておらず、容易に討伐できた例は何度かある。だが、いずれのケースも勇者根絶に至っていないのが、歯がゆい。彼らは思っているよりもしぶといのだ。
「剣の丘に向かっている模様……。」
新たな剣を手に入れるために向かっているようだ。到達するまでに叩くのが無難だと言えるが、果たして……?
「決まりだ!行くぜ、俺は!ついでににっくき“勇者王の剣”もブッ潰してきてやる!」
剣の丘にあるという勇者王の剣。かつて勇者王が振るっていたという剣。それを原料に歴代の勇者の剣は作られているという。大本を破壊してしまえば、彼らが弱体化するのは目に見えているが……。
「やめておけ。あれは私でも破壊できなかった代物だ。」
「やってみなきゃ、わかんねえよ!もし、できたらアンタより上だな!」
「そうだね。もし有言実行できたなら、君を四天王に格上げしてあげよう。当然、そのときは馬君降格ね。」
「キング!」
「決定!じゃあ、行ってらっしゃい!」
ギャロ様の諫言を遮り、キングは決定を下した。キングの命令は絶対とはいえ、私もギャロ様と同じく慎重派だ。ゴズ様を消滅させた能力については不明な点が多い。じっくり解析してから挑むべきだと思う。未解明要素が絡んでいる以上、危険と言わざるを得ない。不安だ。