……目ノ前ノ 敵スベテヲ…斬ル!!
「虚心坦懐……、絶空八刃!!」
(ズボアッ!!!)
空間を斬る。我ながら大それた技だと思う。不死身の相手、実体のない悪のエネルギーとか色んな物を斬ってきたが、斬るという概念が通用しなさそうな相手まで斬ることになるとは……。
「やった……か?」
何かを斬った感覚はある。でも、倒した、という実感はまだない。
「私を斬るだと?そんな馬鹿なことが……、」
(ミシッ!!)
何かがきしむような変な音がした。その音がすると同時にダイヤ竜たちが一斉に動きを止めた。
「ウゲッ!」
ダイヤ野郎は妙な奇声を発した。効いたんだろうか?実体が見えないので、わかりにくい。
「ロア!今一度、あの技を使うのだ!まだ、浅い!渾身の一撃を決めろ!」
狐面が叫ぶ。アイツがそう言うんなら大丈夫なんだろう。俺は二撃目の姿勢を取った。
「痛みだと、馬鹿な!私は痛みなど、とうの昔に克服したはずだ!ありえぬ!一体何をしたというのだ?」
痛みを克服した?感覚がなくなっていたんだろうか。もうそんなものは生き物ですらない。死んでいるも同然じゃないか。
「決して許さぬぞ、野蛮人どもめ!全力でひねり潰してくれるわ!」
ダイヤ竜たちが他を無視して、俺目掛けてい一斉に突進してきた。脇目を振らず猛然と。何千年ぶりに感じた痛みにヒステリーを起こしているみたいだ。
「もう一度だ!次で決めてみせる!」
再び集中を始める。……さっきと違って、相手がこっちに意識を向けているせいか、気配がハッキリわかる。敵の手が迫っているとはいえ、かえってチャンスになった。
「虚心坦懐……、絶空八刃!!!!!!」
(ズボアッ!!!)
(ミ…シッ。)
斬った。今度はハッキリと手応えがあった。下手をすると、自分の腕が折れてしまいそうなくらいの圧を感じた。でも、斬った。途中からは剣の刃を滑らせるような感じでスッ、と斬れた。
「私は…ふ…じ…み……だ。」
斬った瞬間からダイヤ野郎の様子がおかしくなった。おかしくなる自分をおさえようとしているようにも感じる。
「私は…完全なのだ。負ける、死ぬ等ということはありえない。」
とうとう現実逃避を始めた。魔法を極めた伝説の王が情けないことになっている。
「私は…そうだ、死さえも極めたのだ。私は更に完全になったのだ。そうだろう、ロバート?」
おかしなことを言い始めた。ところで、ロバートって誰?
「死を極めた!死を極め…死をきわ…死をき…死を…死……、」
止まった。ついに死んだか。
「ロバアァーーーートぉぉぉぉ!!!!!!」
だから誰なんだよ、ロバートって!最後にモヤモヤさせんじゃねーよ!未完で終わるなよ!
(ビキ……ビキビキッ!…バキッ!!)
何かが壊れるような音がし始めた。……そうか!アイツが死んだから空間が壊れ始めてるんだ。
「空間が崩壊するぞ!」
今まで存在していた地面、景色、建物が消えていった。同時にダイヤ竜たちも消えていく。全てが音を立てながら壊れた。