修羅道とは……、
「勝負するにあたって、名を名乗っておかねばならぬな。」
そういやそうだった。ブドー・マスターとかいういかにも偽名臭い名前しか聞いてなかった。
「拙者の名は、コタロウ・サザと申す。」
「じゃあ俺も。俺の名は勇者ロア。元流派梁山泊だ。」
「元とは如何に?」
「破門されたんだよ。師範でも門下生でもなんでもない。半端モンだ。」
「破門?お主程の者がか?だが、拙者はそうであろうと決して容赦はせぬ。お主からはただならぬ気配がするのでな。」
「そりゃ光栄だな。アンタをガッカリさせないようにせいぜいがんばるわ。」
俺も剣を抜いた。剣を正面に構えて、戦闘の体勢を取る。
「参る!」
俺の応戦の意志を確認した途端、侍は攻撃を仕掛けてきた。真正面からの打ち下ろしだ。
(ガギッ!!)
「まずは小手調べ。攻撃の受け方で相手の人となりがわかるというもの。」
「随分と余裕なようで?」
「拙者は100年待ったのだ。強者の到来を。その間の鍛錬にて、ますます、拙者と剣を合わせるにふさわしい者が減っていったのは、皮肉な事実よ。折角の相手を見す見す失ってしまう訳にもいかぬのでな。」
つばぜり合いをしていても、一向に押し返せる気がしなかった。岩でも押しつけられているような感覚だった。
「うむ。お主のことはある程度わかった。」
侍はつばぜり合いをやめて、元いた位置に飛び退いた。こっからが本当の始まりか。とはいえつばぜり合いをしただけで何がわかったのいうのだろう?
「砂刃舞!」
袈裟懸けの一撃が襲い来る。俺は飛び退いて躱した。回避して安心したのも束の間、今度は切り返しの横薙ぎの一撃が来た。これにはたまらず、剣で受け止めた。
「切り返しが速いな!」
「左様。体にまとわりつく砂塵の如き、剣捌き故、砂刃舞と呼ぶ。」
受け止めていた剣が離れ、下からすくい上げるような一撃が来た。俺はそれから逃れるために大きく飛んだ。
「峨龍滅睛!」
飛び上がり背後に回りつつ、脳天への一撃を振り下ろした。……はずがアイツの姿がない。
「何処へ逃れようと纏わり付くのが砂刃舞。」
背後に気配を感じ、剣を後ろに回し、後頭部への一撃を受け止める。
「あんましつこいと嫌われるぜ?」
「戦いに於いては敵に嫌われることこそ本望よ。」
こうも纏わり付かれると、いつまでたっても反撃が出来ない。なんとか打開しないと……。
「コレならどうだ!」
背後の剣から逃れて、一撃を見舞う!
「空隙の……!?」
まただ!アイツの姿が消えた!
「地刃葬!」
今度は侍の方が空中から攻撃を仕掛けてきた。地面とは垂直に刃の切っ先を向け、こちらを貫こうと落下してきていた!
「お命頂戴仕る!」
「ぐわあ!死ぬ!」
と見せかけて、俺は意表を突くためあの技を使った。
(ザンッ!!)
「ムッ!?これは!?」
残されたマントを見て、コイツの注意をそらせている内に……、
「霽月八刃!」
ウツセミの術と八刃の合わせ技だ!その前の空隙の陣も前振りだけどな!
「不覚!」
侍は左腕の小手で攻撃を防ごうとした。だが、霽月八刃の前では防御は無効だ!
(ピシィィィイ!!)
小手の部分からひびが、入り砂の鎧の左腕部分が崩壊し砂に戻った。魔法で出来ているのなら、霽月八刃の前では無力に等しい。
「空蝉の術とはな!まんまと嵌められたわ!一度見ただけで習得するとは。」
「砂男相手に試し打ちしておいたからな。それに要領は空隙の陣と似てるから、難しくはなかったぜ。」
「ますます楽しめそうだ。」
侍は平然と構え直した。鎧にしかダメージはなかったか。踏み込みが浅かったのかもしれない。……いや、でも、何かがおかしい。何か引っかかる。この違和感は何だろう?