卑怯とは言うまいな?
「何だ?また東洋風かよ。」
侍の後を追って次のダンジョンへやってきた。でも、内装が極東の国の屋敷とか城の中みたいだった。本物は見たことないけど、なんとなくそれっぽい雰囲気になっている。目の前には引き戸のような扉があった。
「すげーな。ちゃんとした絵が描いてあるぞ。それにこれは風神と雷神じゃねーか。」
東洋の世界での風の神・雷の神の姿そのものだった。絵だけじゃなくて装飾もちゃんとされている。さっきまでの殺風景なダンジョンとは大違いだった。
「ヘッ、ダンジョン如きにご大層なこった。」
「お前さあ、情緒ってモンはないのかよ。なかなかよく出来てるぞコレ。」
「生きるか死ぬかのやりとりをしてるってのに、呑気なもんだな。」
ファルちゃんは絵とか装飾には関心を示さずに、ピリピリしていた。この先に待っているのが、おそらくアイツなためだろう。
「さっさと行くぞ!」
ファルちゃんが豪快に引き戸を開けた。だが、先にはまた同じ引き戸があった。
「チッ!まどろっこしい!」
もう一度開ける。でもまた、同じ光景があった。
「チッ!」
同じ事が何回も続いた。別にループしているわけではなさそうだ。ファルちゃんが気にせず開けているところを見ると、そういう仕掛けはないみたいだ。
「ああ!鬱陶しい!」
また、続くのかと思いきや、やっと辿り着いた。やけにだだっ広い部屋だった。なんだか武術の道場のような見た目だった。そして、奥の方には見覚えのあるヤツが座っていた。
「よくぞ参った。我が迷宮へ。」
俺たち二人の予想通り、奴自身も迷宮の主だった。今までの言動や行動は芝居だったんだろう。本人は隠すつもりもなかったようなので、俺らには丸わかりだったが。
「アンタ、どういうつもりだ?」
「どういうつもりとは?」
「質問に質問で答えるんじゃねえ!」
ファルちゃん、激おこ。そんなに怒らんでも、ええやねん。
「拙者はただ、お主らと戦うだけのために、実力の判定をしていただけのこと。」
「試していやがったのか!」
「もちろん、不公平故、拙者も力の片鱗は披露させてもらった。」
「そんなもんで、公平なはずがあるかよ!」
公平じゃないけど、すごいやばいヤツだというのはよくわかったから、俺の方は不満はない。それでも、色々疑問はあるので聞いておこう。
「でもさあ、なんで味方のはずの他の主達を倒すようなことしたの?」
「何か勘違いをしておらぬか?ここはそもそも修練の間だ。互いに競い合う事こそ本望よ。」
「そうなのか、じゃあいいや。最初の迷宮で二人以上でないと先に進めないって言ってたのは嘘?」
「半分は嘘だったことは認めよう。」
「半分って何?」
「一人でも進むことは出来る。だが最終局面では、ある理由から先には進めぬ。正確には最終局面にて選ばれた一人のみが神の間に到達できる。」
神の間?まだ先があるのか?しかも神!神が待っているのか!
「選ばれるっていうのはまさか……。」
「ご察しの通り、勝ち抜いて両の足で立っている者のみ。」
やっぱ、戦わなきゃいけないのか。だったらやるしかない。
「二人がかりで勝てるつもりなのかよ、アンタは?」
そうだそうだ!こっちは二人だぞ。勝てるつもり?二人がかりでも卑怯とは言うまいな?
「二人?何を勘違いしている?拙者と資格のある者はただ一人。」
ビシ、と侍は指をさした。さされているのは俺の方だった。
「なめんじゃねえぞ、コラ!俺に資格はないっていうのかよ!」
当然、ファルちゃんはご立腹だった。ファルちゃんが怒るのも無理はない。プライドを踏みにじられたんだし。
「ない。今まで実力は見させてもらったが、忍者如きに苦戦しているようではとても、とても……。」
「こうなったら意地でも、認めさせてやんよ!」
ファルちゃんは両手の拳を前に突き出し魔法の準備を始めた。この魔法は前にも見たことがある!ファルちゃんとっておきのアレじゃないか!
「ヴォルテクス・カノン!!」
一点に集中した風がらせん状になって、侍の方まで飛んでいく。
(ヴォォォン!!!)
当たったと思った瞬間、鈍い音がして、竜巻がこっちに向かってきた。どういうこと!
「チィィ!ウインド・シールド!」
ファルちゃんはとっさに風のバリアを作って身を守った。風の渦は周囲に拡散していった。
「魔障結界陣。もしや、忘れていたのではあるまいな?」
その声は俺たちの後ろから聞こえた。いつの間に後ろに回った?気付いたときにはもう遅かった。
(バシッ!!)
侍がファルちゃんの首筋に手刀をたたき込んでいた。そのまま、ファルちゃんは気を失って倒れた。
「だから言っておるのだ。拙者には勝てぬと。」