黒牛の尖角
「魔王の遺産のあなたが何故、力を貸してくれたんですか?」
疑問というより、謎だった。従うなら、魔王と同種といえるデーモン達を選ぶのでは、と普通は思う。
《主よ、それは先刻も述べたはずだ。我は主以外の者に扱われるのを快く思ってはいない。我は魔王に忠誠を誓ったのだ。》
「で、でも……、」
そんなことを言われても、私は魔王ですらないし、デーモン・コアはすでに失われている。そして、今の体ではデーモンになる可能性もない。
《貴殿が迷宮に訪れた気配を察知した我は、あの下級悪魔を利用し、貴殿に巡り会うように仕向けた。》
「私はデーモンですらないんですよ?どうして私を主に選んだんですか?」
《既に元の主、魔王は存在していない。だとすればその力を引き継いだ者が次の主にふさわしいと考えた。それ以前に互いの力の波動が合致しなければ、本領を発揮できない。》
力の波動が合う、というのは理解できた。私は初めて手にしたのに使いこなしてしまった。
「あなたの意志は理解できました。でも、私は魔王やその眷属と敵対している側の人間です。あなたはかつての仲間を裏切ることになりますが、それでもいいんですか?」
《構わない。私が従うのは魔王と、その後継者だけ。それは物事の善悪も関係ない。主が我を振るい、何を成そうと、それに従うまでだ。》
善悪は関係ない、ということに不安を感じるけど、私たちの行いに反対の意思はないという意味では安心した。
「じゃあ、改めて、私はエレオノーラ・グランテです。よろしくお願いします。」
《主に付き従い、事を成さん。》
力を貸してもらえるなら、そうしようと思う。“黒牛の尖角”さん自身には邪悪な意志は感じないし、一緒に戦えると思う。今日みたいにほとんど何も出来ないようなことはなくなると思う。
「契約は無事済んだようだな。」
「契約……、言われてみればそうですね。契約はできました。」
まるで魔獣使いや召喚術士みたいだった。相互に協力関係を結ぶというのは似ているかもしれない。
「後は、君自身が武器の扱いを学ぶことを考えるべきだな。それに身体能力向上の魔術を生かすためにも武術を取得すべきだろう。」
「は、はい。大変そうですけど、やってみます。」
今までそういうことをやったことがないので、自分にも出来るかどうかわからない。今日の戦いでの動きも、勇者様の動きをなんとなく真似してみただけだし。
「機会があれば、私が手解きしてやろう。私は槍覇のため、直系ではないが戟の技もある。君が先程使っていた大鎌は槍よりも戟に近い。おそらく応用も出来るだろう。」
私が勇者様と同じ技を……。出来るのかな?
「おお!ここにおったのか!」
そのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返って確認すると、サヨさん達がこの部屋に入ってきていた。……でも、勇者様とファルさんがいない。
「二人とも無事じゃったか。……して、此奴は何者じゃ?」
サヨさんはヘイフゥさんを訝しむ目で睨んでいた。