槍覇、曰く。~常に泰然自若たれ~
「戦技一0八計が一つ、鴻鵠合衝!」
ポイズンジャイアントの体に大穴が空いた!私たちはただただ驚かされてばっかりだった。ヘイフゥさんは圧倒的に強くて、自分たちの出番はほぼなかった。
「ふむ、さすがに数が多いな。さすがにかつて魔王の本拠地だったことはある。」
地下9Fと違って魔物が次から次へと現れた。落ちた所にいたバジリスクをはじめとして、ポイズンジャイアント、ゴルゴンとか強力な魔物ばかりだった。
「ごめんなさい。私、全然力になれなくて……。」
「気に病む必要はない。君たちはそれぞれ、回復術士に魔術師だ。戦闘は私に任せて、魔法で援護してくれればいい。」
「はい……。」
「あまり納得していないようだな?」
正直、納得というか、自分の今の立場を情けなく思ってる。そのことでヘイフゥさんに罪悪感を感じてしまっている。
「初対面の君にこんなことを言うのもなんだが……、君は魔術師だ。即ち、一番の頭脳職で、ある意味、軍師の役割を果たしているともいえる。」
「私が軍師……?」
小さい頃からお母さんのような魔術師になることを夢見て勉強してきたけど、魔術師が軍師の役割をするという考え方は今までなかった。
「軍師たるもの、常に冷静に、泰然自若の精神で状況を判断しなくてはならない。たった一つの判断ミスが敗北につながったり、的確な判断で危機的状況からの勝利につながりもする。」
常に冷静な判断……、私にそんなこと出来るのかな?
「君の思い人は直感を頼りに後先考えず行動する傾向がある。それを君が頭脳と冷静な判断力で支えてやると良い。そうすれば勇者の戦いもより盤石になるだろう。」
思い人と言われて、思わず顔が熱くなるのを感じた。初対面の人にまでそんな風に見られていたなんて……。でも逆に今まで勇者様を見守っていてくれていたんだというのが伝わってきた。
「忠を尽くす……我々の国にはこんな言葉がある。」
「忠誠を尽くすということでしょうか?」
「必ずしもそうではない。その本質は真心を尽くすというところにある。自分の愛する物に自己をささげ、節操を変えないということだ。君はそれを心掛けて行動すると良い。」
「ありがとうございます。これからは教えて頂いたことを考えて行動してみます。」
冷静に行動するのは、今はまだ難しいかもしれない。勇者様のことを思って、少しずつ出来るようにしていこうと、私は決意した。