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勇者、突入する。

 それから、どれぐらい歩いたのだろう。険しい山道を登り続け、洞穴へとたどり着いた。そこで一同はヴァルの号令で一旦その場に停止した。


「諸君!ついにたどり着いたぞ!ここに竜帝がいる。」


 実際に見たわけではないのに、彼はそう断言した。彼は竜の気配を探ることが出来るというのは本当なのだろう。竜帝の恐るべき気配の出所はここであることを察知しているのだろう。ヴァルほどではないものの、ロアも鍛錬により人や自分への脅威の気配を探ることが出来る。


「……間違いなく、得体の知れねえのがいるのは間違いなさそうだな。」


 先程戦った飛竜とは比較にならないほどの威圧感を肌で感じ取った。思わず、唾をゴクリと飲み込む。


「ここからはいつ戦闘になるかわからない。覚悟のないものは立ち去っても構わん。これが最終勧告だ!」


 最終勧告……、その言葉で一同の緊張がいっそう深まる。


(ハ~イ、今すぐ下山しま~す、なんてもう言えないよな……。)


 竜帝にも絶望感を感じているが、もう後戻りできないことにも絶望感を感じていた。今から帰るなんて言いだそうものなら、一同から袋叩きにされるだろう。もう既にそんなことが言えない空気になっている。


「それでは、これより突入する!」


 ロアは歯を食い縛り、覚悟を決める。


(……よし!出たとこ勝負だ!)


 洞穴の漆黒に討伐隊が入っていく。その光景はまるで巨大な口に自ら飲み込まれていくかの様だった。




 洞穴のなかは思いの外広かった。実際、竜帝がどれぐらいの大きさなのかはわからないが、飛竜ぐらいの大きさでも、住処とするには十分な大きさがあった。


「広いな。こりゃ竜帝を探すのは骨が折れそうだな。」


 ロアは魔力の光によって照らし出された洞穴内を見渡しながら言った。魔力の光はファルが魔術を行使したものである。


「しかし、魔術ってのは便利なもんだな。こんな事も出来るのか。」


 洞穴内を一通り見渡したロアは、魔力の光球を見ながら感心していた。


「ふん。こんなもの、初歩中の初歩だぞ。」


 魔術としては簡単なものであるらしい。しかし、魔術を見たことがないロアにとっては大したものに見えてしまう。


「だが、普通はこんな明かりは奇襲を仕掛けるときは使わない方がいいはずなんだがな。」


 ファルは訝しげに言う。彼の言うことはもっともである。こんなに明るければ、逆に敵に見つかってしまう。これはヴァルも承知の上で指示したものである。


「ほんと、わかんねーわ。」


 英雄と呼ばれるほどの男である。並みの人間の理解を越えている……、とはいえこの事はあまりにも大胆不敵すぎるとも感じる。


「まあ、彼を信じるしかないんじゃない?何か作戦でもあるということにすればいいじゃない。」


 ジュリアはヴァルに対してのフォローを入れる。しかし、その口調とは裏腹に神妙な表情をしているようにも思える。


「そういや、あいつ自身の企みとやらもあるんだろ?」


「おい、こら!それは他言無用と言ったろうが……、」


 と言いかけたところで、その場に異様な気配が立ち込める。


《愚かなる人間どもよ!よくぞ、我が元へ参った!》


 突如、どこからともなく大音響が頭のなかに鳴り響いた。そう、頭の中にである。


「……え!あ、何!」


 頭のなかに直接響いている声だと言うのに、ロアはそれが信じられないとい言いたげな様子で両方の耳を押さえている。だがしかし、これは紛れもない現実だった。


《不遜な輩は生かして返すわけにはゆかぬ。心しておくがよい。》


 また、声が鳴り響いた。侵入者に対しての警告……、それどころか死刑宣告のように思えた。


「なるほど。あちらさんはとっくにこちらの事は察知してるってことか!」


 ファルは納得しながら言う。竜帝に対しては奇襲はおろか、如何なる策をも無意味なのではないかとさえ思えた。竜帝がこちらの想像を遥かに越える存在なのは間違いなさそうである。ヴァルが明かりを付けさせたのはこうなることを熟知しての事だったのだろう。


「やべえ、ほんとに勝てんのかよ、こいつに。」


 誰もその問いには答えない。誰もがそんな保証などないことは実感している。


「勝てるとも!少なくとも、この私はな!諸君らのことは保証できかねるがな。」


 ヴァルは竜帝を目前としたこの場で大胆不敵に言う。そして、自慢の竜殺しの大剣をゆっくりと引き抜く。一体、そんな自信は何処からわいてくるんだ?と一同は思った。


「さあ、始めようか!私の新たなる伝説が始まるのだ。」


 まるで、勝つのは当然であるかの如く、彼は立ち向かっていった。


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