第449話 いっぱい付いてると有利ではありますね?
「まるで蛇の魔王が使ってきた多頭多腕の魔神みたいだ……。」
「何? お前の言ってた蛇の魔王の異形形態がアレに似ていたって言うのか。」
「腕だけの話だけどな。魔王自身も南東の古代の神の姿を真似たとか言ってた。」
正にアレを連想させる姿だったので、思わず声を上げてファルに説明する流れになってしまった。ついでに言うと性別すら違うのだが、男女の違いは大した事ではない。あの南方の国では独自の宗教観があるってのは俺も聞いたことがある。
「あのシユウ一族とかいう連中はそこの出身なのか?」
「そういうわけじゃない。俺と同じ国の出身のはず。鬼も元を辿れば先祖は古代の神って言ってたから、ルーツは似かよっているかも。」
神の姿は大体腕の数が多かったり頭の数が複数だったりするらしいのだ。中には象の頭を持つ神様もいるんだとか。果たして本当にそんな姿をしているのかどうかは定かではないが、全知全能感を表しているのだと考えれば納得がいく。表現自体はその土地の文化に影響されるので、よその人間がどうこう言えるもんじゃないしな。
「とはいえ、魔王側の複製人間は両方倒れたことになる。今二人が戦おうとしているが、何の得になるんだ?」
「鬼はそういうヤツだとしか言えないな……。アイツは強者と見れば見境なしに戦いを仕掛けてくるようなやつだから。」
「鬼側の趣向はわかった。でも羊が何も言ってこないのは不可解だな。それとも敵同士潰し合わせるのが目的なのか?」
エルとエピオンにはそれぞれ親と敵対するよう当てがったりしたわりには、侍達に対してはそういう関係性を無視するような形で戦うことを強要してきた。その果てに二人も自軍の戦士を失っても、ハリスは何も行動を起こそうとしていない。何か裏で考えている途中なのか、それとも何らかの企みがあっての事なのかハッキリしない。正に沈黙の魔王と言われる事はある。
「二人の戦いが始まりそうだぞ。」
「侍は……さすがに刀を拾ったようだな。それでも有利とは言えないしなぁ……。」
両者は暫く睨みあった後、それぞれの戦闘スタイルで戦うことを暗黙の了解としたのか、侍が刀を回収するのを鬼は黙って見ていた。その間に奪い取った腕の調子を確かめ気力を充実させる体制を取っていた。ヤツの闇の力は元通りどころか、俺と戦った時よりも増大しているように感じる。
「参る!!」
「存分に死合おうぞ!!」
素手と刀、その戦闘スタイルはそれぞれ異なっているが、互いの実力は拮抗しているみたいだった。侍の正確無比な鋭い打ち込みを物ともせずに刀の側面を打つ形で攻撃を払っている。一方の鬼も突き、蹴りの壮絶な連携を防御の合間に繰り出しているが、侍は体捌きのみでかわしていた。刀を防御に使う等一切していないのだ。
「強くなっている、侍は! 大武会の時、いや、フェルディナンドと戦ったときよりも!」
「鬼もやっぱ力を取り戻してしまってる! 複製人間に秘められてるゲイリーの闇の力を吸収してしまったんだ!」
双方の戦いは最早人外の戦いだった。超越者たちが死闘を繰り広げているんだ。両者に勝てるのは数えるほどしかいないだろう。上位の魔王とか、ヴァル・ムングとかだ。本当に手に負えない連中だとしか思えなかった。いつかはこの二人と再戦するのだと考えるだけでゾッとする。
「秘術まで用いた我に追い付いて来れるとは大したものよ。」
「東洋の武を極めし一族を名乗るだけの事はある。これほどまでとは。」
「うぬならば更に秘術を用いても問題あるまい。”阿修羅封腕”を次なる段階に持ち上げるまでよ!」
鬼は一度侍から間合いを離し、手で複雑な印を組んで何やら集中を始めた。更に腕を増やしたり、顔を増やしたりするのかと思いきや。もとはムーザの物だった追加の腕の手元には闇の靄が棒状に形成されていっていた!
「我が体にはある男が使っていた妖刀の欠片が残っていてな。所謂、怪我の功名とも言うべきものであろうな。欠片に宿る怨念から元の姿を復元できるのだ。」
「むう! 妖刀とな!」
妖刀? それはひょっとして青龍が持っていた二振りの事を言っているのか? アレはあの時鬼によって破壊されたはず? ミヤコの手によって曲がりなりにも復元されたはず。もしかして鬼に突き刺さったときに刃こぼれした破片が体内に残っていたのだろうか? 黒い靄のシルエットは確かにあの妖刀の姿に変化していっている!
「闇の気によって練り上げられた妖刀か。よかろうお主の挑戦、受けて立つ!」
「極東の剣士よ、我に力の全てを見せてみよ!」
素手による技に加え、増やした腕には妖刀。しかも二刀流! これはさすがに侍に分が悪いんじゃないか? アレはある意味二刀流以上なんじゃないか。両拳も加えれば四! 足も加えれば……更に数が増加するじゃないか! そんなハチャメチャな戦法に勝てるんだろうか?




