第444話 リアル鬼ごっこ開始……!?
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ、ってかぁ!」
「その余裕、いつまで続くのであろうな。それが終わる時がうぬの死の時となろう!」
侍と拳王が素手の格闘戦を始めたのを見届け、もう一方を覗いてみたら、ガチの命懸け鬼ごっこが繰り広げられていた。ムーザは侍とは対照的に素手の相手に合わせず、剣を手にしたままだった。とはいえ自分からは仕掛けず鬼を遊び半分で挑発し、逃げ回っているだけのようだが。
「死の時ぃ? 冗談じゃない。余裕がなくなった時はこっちが鬼になって、攻守交代なだけだろ?」
「食わせ者め! うぬの児戯に等付き合ってはおれぬ!」
ムーザが回避し間合いを取った瞬間、鬼は両の手首を合わせ広げた手の平の内に闘気を溜めて放った。螺旋豪とか螺旋獄とかいう奥義の縮小版かな? あの奥義の簡略版とも言うべき物をムーザに向けて放ったのだ。
「螺旋弾!!」
「闘気を集中させて放っただと!?」
ムーザにとっては想定外の一撃だったようで、その技に驚きを見せていた。しかし、驚いたのもほんの少しの間だけで、飛んでくる闘気の固まりに向き直った。闘気が目前に迫ったところで手にした剣を一閃させ、切り裂き両断して見せた。分断された闘気は左右に別れて飛散し地面や壁に窪みを作ることになった。
「遠当てか。魔法みたいなことしやがるな。でも、俺には効かんぜ。この俺に斬れないものはないからな。」
「なるほど。一定の実力はあるようだ。闘気を扱う技の凌ぎ方は心得ていると見た。」
ムーザだってただ斬っただけじゃない。闘気なんて普通に刃物を当てたくらいじゃ斬れない。そんなことしたら普通は刃が欠けたり、場合によっては剣が折れたり曲がったりしてしまう。実体がないとはいえ、気っていうのは固かったり熱かったりするもんだ。それを斬るには同等の力を剣に伝えた上で事に及ぶ必要があるのだ。要するにムーザも闘気の技が使えるということ。
「凌ぎ方だけじゃないぜ? 別にそういう技はアンタだけの専売特許じゃないんだぜ?」
ムーザはその言葉の真意を見せるために、剣を再び真一文字に一閃させ空を斬った。風切り音が響いたかと思うと、突風の様なものが鬼に向かって飛んでいき、それを鬼が手の平を前に突きだし、気合いの一声で空気を震わせかき消して見せた。気合いだけで相殺してしまったのだ!
「これが隼斬波だ。軽くやったからとはいえ、あっさり消しちまいやがるとは! 本気でやったときはそれだけで済むと思うなよ?」
「……。」
ムーザは技をあっさり止められ悔しがってはいるものの、鬼の方に多少の変化を与えていた。鬼は平然としているが、手の平にはすうっと赤い筋が入っていた。相殺しきれず、手に傷を与えていたようだ。それもしばらくするとうっすらと煙を立てたかと思うと消滅していた。鬼は一瞬で再生してしまった。
「なんかよう、魔族と似たような気配がすると思ったら、鬼さんアンタ、魔族とかの類いかね?」
「我は魔族等という輩ではない。我は戦神の末裔、”蚩尤一族”なる者ぞ! 武を極めんとし、冥府魔道を突き進む者ぞ!」
「なんだぁ? シユウ? 戦神の末裔? ああ、そうかい。なんかおかしなカルト集団とかマイナー邪教信者の類いかよ。要するに教団からしたら異端認定されそうな類いの人間ね。じゃあ結局、魔族とおんなじじゃねえか!」
ムーザは東方の知識がほとんどないためか、シユウやらの単語を聞いてもいまいちピンときていないようだ。戦神の末裔とか言われたらカルト教団の関係者に思えても仕方ないのかもしれない。俺も詳しい実体は知らないが、神話に出てくるような邪神を先祖と崇めてる様な連中だからあながち間違っていない認識と言えるのかも。
「やはりこの西方の土地では”魔王”なる者が幅を利かせておるようだ。我がその様な者共を平伏させ、魔の頂点が誰であるかを再認識させてやらねばなるまい。」
「おうおう! 魔王をシメて、征服してやろうってか? 東から遠路はるばるやって来たのはそういう理由とは! まるで裏社会とか教団の暗部みたいなやり口だ。どこの土地だろうと、人間の根っこは変わらないもんだねぇ。」
一応、只の戦闘狂と悪魔の軍団っていう大きな違いはあるはずなんだけどな。でも一般人からしたらどっちもはた迷惑な暴力集団でしかないとも言える。ああ、でもどっちにも共通してることがあったな。おかしな事に闇の力を使うってところだけは共通してるよな? 土地は離れていても何故か力の源だけは同じなのはどうしてなんだろうな? 大昔にどこかで繋がりがあったんだろうか?
「アンタが魔族の類いってのはよーくわかった! 怪我もあっさり治るってんなら、俺が手加減してやる必要も無くなったわけだ。ちょっと痛い目見るのを覚悟しとけよ?」
「見せてもらおうか、痛い目とやらを。うぬの力、全力を以て叩き潰してくれよう!」
両者ともに本気スイッチが入ってしまったようだ。ムーザも相手が簡単に傷くらい直してしまうんならちょっとくらいやりすぎても問題ないと思ってしまったのだろう。果たして本気のムーザはどれくらい強いのだろうか?




