第438話 というか、あなたは何者ですか?
「なんでお前が? なんか別の所で再会するとか予言してなかったっけ?」
「へっ! お前がどんくせえから思わず口を出したくなったんだよ! 証人もいねえのに重大情報をペラペラとしゃべりやがって!」
いきなり現れたのはパッチラーノだった。俺はあの空間から無理矢理追い出される直前に、次はどこどこで会おう、と言っていたのを憶えている。あの予告は何だったのか? まあいいさ。どこかでこっそり見ていて、黙ってられなくなってしまったと見える。
「つかぬことをお伺いしますが、あなたはどちらさまですか? あなたのような人はこの場所を攻める作戦には加わっていなかったはずでは?」
「そんなのはどうでもいいんじゃないですかい? コイツの連れでさぁ。」
「連れ? お友達なんですね?」
「ああ、もう、なんかそれは違うかな? ぶっちゃけ監視役みたいなもん。あ、やべっ! 言っちまったよ!」
「か、監視役なの、お前?」
身元不明の謎の男が出てきたら、誰だって怪しむ。お義母さんは代表で聞いてくれたからよかったのだが、しれっととんでもない情報が飛び出して来たような? 俺は監視されていたのか? ていうか、どこの組織から? ぶっちゃけ、コイツがどこの勢力の者なのかもハッキリしていない。
「それはどうでもいいから、もとの話に集中しろ! とにかく見てたんだよ。俺は。蛇の魔王を倒すまでの一部始終をキッチリと見ていたんだぜ。問題の証言も聞いていた。間違いない。そこの親子は蛇の魔王の受肉計画に利用されていたんだ。」
「ハゲですけど信じてやって下さい。毛はないけど本当の話なんです!」
「はげじゃね~から! コレは剃ってるだけで決して剥げている訳じゃない!」
「でも、禿げてるから、全部剃って誤魔化してる可能性もありますよね?」
「うっせー! ぶち殺すぞ、テメー!!」
どこの誰だかわからない上にハゲだからね。怪しい事この上ない。この手の人物は「けがないですか?」と心配して声をかけても、「誰がハゲじゃコラ! 毛は剃ってるだけじゃ!」とか勘違いした返答を寄越すんですよ。日頃から毛の事を気にしてるから「怪我ない」を
「毛がない」と勘違いするわけです。やっぱ気にしてる所が怪しいんですよ、ハイ。
「では、蛇の魔王が全て目論んでいたことなんですね?」
「まあ、そういうこってす。となるとあの男はどうなるのかって話になりやすが、それは直弟子の先代勇者にでも聞いてくだせぇ。」
「シャルル様にも非はあると?」
「俺から話せるのはここまでっス。ここからは黙秘権を行使しますんで、悪しからず。」
エル達親子が貶められていたのは、蛇の魔王が暗躍していたからということが証明された。でも、あと一人のシャルルはどうだったのか、という話になってくる。彼は蛇の魔王の企みに巻き込まれ利用されただけなのか? それとも……?
「ふふ、色んな邪魔が入ってしまったけれど、これでわかったでしょう? オードリー達も荷担していたとはいえ、あなたのお父さんは薄情な人なのが分かったでしょう? あなたが決して会ってはいけない人なのよ。」
「そうかもしれない。でも、私はお父さんに会ってみたい。できることなら本人の口から事情を聞いてみたいの。だから邪魔はしないで。」
「そう。そこまで言うのなら……私がここで止めてみせる。」
エル達親子が貶めた黒幕はハッキリとしたが、父親のシャルルについての問題が解決したわけではない。おそらく会えば辛い出来事になるのは目に見えている。だから、お義母さんは止めたいのだろう。でも、エルはその先に進むことを望んでいる。
「言ったはずよ。私はお母さんを斬ってでも先に進みたい。いえ、斬らなければならないのよ。お母さんをいつまでも魔王の操り人形のままでいさせたくないから!」
「本当に私を斬る事が出来るのかしら?」
「……!!」
(ザンッ!!)
それは一瞬の出来事だった。エルは瞬時に踏み込み大鎌を袈裟斬りに一閃させたのだ。斬ったからといって、お義母さんが真っ二つになったわけではない。これは”無明八刃”だ! その一撃は鉄壁の防護さえ透過して内部を切り裂く効果がある。
「私をそのまま斬ってしまえばいいものを……。この仮初めの肉体だけを破壊するなんて。そのまま私を倒してしまえば、オニオンズの姿になってしまう。私が魔王を裏切ったとしても、きっとそうなったはず。」
「それを避けたかったから。お母さんを醜い姿に変えてしまうのだけは避けたかったのよ。」
これはおそらく、お義母さんの裏に仕込まれたオニオンズの体を破壊するためだろう。なるべくお義母さんにダメージを与えない形で決着を付けたかったエルの願いが届いた結果なのだ。
「本来魔術師の家系だというのにここまでの技を身に付けているなんて大したものね。武芸に秀でているのはあの人の血筋のお陰かしら……。」
「それもあると思うけれど、先生と伴侶に恵まれていたから実現できた技なのよ。」
「いい人達に巡り会えたのね。なら、この先何があっても乗り越えていけるはず……。」
お義母さんの肉体は崩壊し、灰のように空気中へ散り散りになって消滅していった。その時の顔はとても穏やかだった。周り全てを憎々しげに見ていた姿からは考えられないような結末だった。




