第437話 それはアナタしか見ていない出来事ですよね?
「私の娘を助けたい一心で適当な情報を言おうとしてるのではないかしら?」
「んなこたぁないですよ! 俺、蛇の魔王は倒してきたんで!!」
そこでまた大きなどよめきが周囲で起こった! この塔に入った直後、蛇の罠にかかってしまった俺にとっては一大決戦を繰り広げたワケではあるが、俺以外は誰一人として目撃していないので、ホラ話と取られてしまうのも無理はない。エルたち同じパーティーのメンバーは信じてくれたが、他の連中は疑いも持っているからこそのどよめきなのだろう。問題はどうやってこれを説得するかだ。
「まず始めに、グランデ家ってどういう血筋かはご存じで?」
「は? 何を言っているの? 私をからかっているのかしら? ふざけるのも大概にしなさい。」
ああ、聞き方、言い方が悪かったかな? お義母さんを怒らせてしまった。そして、起こったときの表情はエルととてもよく似ている。しかも彼女は死んだときの年齢のままなので、今のエルと大して変わらない。知らなかったら姉妹として見えてしまいそうなくらいに。
「それは大抵の人は知っていることだわ。それを私達当人に聞くなんて、何か隠された秘密でも知っているの? 当主でもあったお母さんがでさえ知り得ない情報を?」
「いや、今までエルからも聞いたことがなかった話なんで、もしかしたら当人たちも知らないのかな?と思ったわけよ。しかも、ちょっと隠しておきたくなるような情報でもあるんで。」
「表沙汰にはしずらい情報なのね? それは一体……?」
「実は……古の大魔王を産み出した血筋らしいんですよ!!」
「な、なんだって~!!??」
おお、通算二回目の「なんだって」を頂きました! ここまで来ると「話は聞かせてもらった」とか言いたくなるじゃないですか? このやり取りは勇者エニッコス伝説でもたまに出てくるそうなのでちょっと憧れていたり……。タニシから熱弁解説されたのでよく憶えてるんだよ。それはさておき、結構な大物の名前を出しちゃったよ。大魔王の事知っている人はどれくらいいるんだろうか?
「私達は大魔王の子孫……ということ?」
「いや~、くわしくはちょっと違うらしくて、大魔王には子孫はいなかったそうです! グランデ家はその頃から続いていたそうですよ? その一族から大魔王が出てきてしまったのだと、蛇は言ってました!」
直の子孫ではないから、異端審問会からしょっぴかれる可能性は低いかと? まあ、これでも何らかの言いがかりをつけて、エルを捕らえたりしてきそうだけど、その時はその時だ。多分、異端審問会のトップはこの事を知っているだろうから、言っても特に問題はないはず。蛇に操られているわけだし、これから語る陰謀にも関わっているワケだしな。
「大魔王に関係する血筋が話にどう影響するのかしら?」
「まず蛇の目的から話すと、その血筋の人間の肉体を乗っ取りたかったらしいんだ。魔王は受肉すればより強くなるらしいし。その辺は犬の魔王が実践しているので実用性は証明されてます。」
「私の体を乗っ取る? 牛ではなく蛇が狙っていた?」
「アイツ的には魔力の強い人間がお好みだったようで。それでグランデ家の人間に白羽の矢が立ったそうです。あらかじめ牛の力で汚染して闇に馴染ませた上で、世代を跨ぐことでより濃厚な魔力を得たかったから、子のエルを乗っ取ろうと画策してたみたいです。」
「そんな回りくどい事を……。」
お義母さんがそう思うのも無理はない。蛇のヤツがここまで念入りに計画を立ててたなんてな。蛇の話だけではイマイチ詳細はわからなかったが、お義母さんの過去話を聞いて補完される結果になり、全てを理解することになったのだ!
しかも、アイツは何人かの人間に取り憑いていると言っていたのも裏が取れた。オードリーと言う名を聞いたときはビックリした! まさかお義母さんのお知り合いだと思わなかったもんな。
「念入りに親子を陥れて、肉体的にも精神的にも蝕ませた上で、受肉するという計画だったそうです。ですが、俺が全部台無しにしてしまったそうなので、激オコ状態だった様です。だから、俺を一人っきりにして、フルボッコにしようとしていたというワケです。」
「果たしてそれが本当なのか信じがたい話ですね……。」
「私は信じるよ。あなたがつまらない嘘をつく人じゃないのは知ってるから。」
親子で意見が別れる形になってしまった。お義母さんだけじゃない。周りの反応も似たような感じだ。俺に好意的なエドとかサヨちゃんは信じてくれているようだが、ブレンダンとか処刑隊の連中は端から疑っているような雰囲気だ。
まだコイツらは理解できるが、ミヤコとかプリメーラなんかは「嘘だー」とか「ありえね~」とか言っている。コイツらはそもそも俺の存在すら認めていないので論外なのかもしれないが。
「信じるか信じないかはアナタ次第です!」と言いたいところだが、今はそういう状況じゃない。せめて証人がいれば話は別なんだが……。このまだと俺の妄想ということで処理されかねない。さて、どうしたものか……?
「……ったく、世話の焼けるヤロウだな! 俺が証人になってやるよ!」
「ああっ!? お、お前は!?」
見覚えのあるハゲ頭が突如現れた! 「小さい”つ”が入るんですぅ」で有名なあの男が出てきたのだ。でもさ、次会うときは聖都で、って話じゃなかったっけ? なんか知らんが助太刀に来てくれたようだ。案外、人がいいのかもしれない。




