第436話 異議あり!!
「これでわかったでしょう? あの人は私を見捨てたのよ。表向きは闇に汚染されたからという理由で隔離したように見せかけて、体よく私と縁を切るような事をした。」
「お父さんがそんな……、」
信じられなかった。勇者と呼ばれ、魔王さえ倒した功績のある人がお母さんを裏切ったなんて……。確かにお母さんが魔族、それどころか魔王に変貌してしまう恐れがあったからというのもあるんでしょうけど、あまりにも惨い仕打ちだと思う。
闇に汚染され魔王へと変貌していく様は自分が味わったことがある私からすれば、どれほどおぞましい事なのかはよく知っている。でも……、
「お父さんも事情があったんだと思う。闇に汚染された人と関われば異端審問会から処罰されてしまうかもしれないし……、」
「それはどうかしら? 少なくとも私には温情をかけた上での判断だったんでしょうけど。あなたに対してはどうなのかしらね? あなたは闇に蝕まれ、一時は魔王に変貌しかけたのでないかしら? 普通は”イノセント・コア”があればそうはならないはずなのに。」
私自身もそんな秘宝が存在することを初めて知らされた。お母さんが魔族に変貌することなく短命でこの世を去ったのはそういう理由があったなんて。もしその秘宝の影響下にあれば、私もそのような人生を送ることになったはず。でも、何故? その秘宝はどこへいってしまったのだろう?
「私には温情をかけたようだけれど、あなたにはそれが適用されなかった。私が生きている間は秘宝は手元にあったの。死後は恐らくあなたの知らないうちに回収されてしまったと考える方が自然よね? ナドラとオードリーは親交があったようなのだし。」
そう言ってお母さんは処刑隊の人たちのいるところに視線を送った。多分、ヘイゼルの事を見ている。彼女はナドラ叔母さまの娘。母の生きている間には彼女はまだ生まれていなかったはずだけど、見た目には面影が見られるので一目でわかったんだと思う。しかも彼女は今、異端審問会にいる。
叔母さまとオードリーさんに親交があるのならば、その伝を使って加入したのだと考えることができる。お母さんの話を聞いたからこそわかる、叔母さまと異端審問会との繋がりだった。二人は私達親子を貶めるために、お父さんにも取り入ったのだろう。
「あの秘宝を回収した上で、闇に汚染され魔族と化したあなたを葬る……。認知していない娘は存在していないのと同じ。関係のない他人であるならその身を切り捨てることは容易いとでも考えたのでしょうね。初めからそういう筋書きだったのよ。あなたを娘として認知していないなら、心も痛まないでしょうしね。」
「異議ありっ!!!」
「……え? ロア……!?」
両親二人の真実を聞かされ陰惨な気持ちになっている所へ、ロアが鶴の一声を上げた。彼が口を挟んでくるなんて思いもしなかった。黙って私を見守り続けてくれていると思ったのだけれど……。わざわざここで発言するのだから、何か考えがあるのかもしれない。彼は軽い気持ちでその様な事をする人じゃないのはよく知っているから。
「何かしら? 私達親子の話には首を突っ込まないで欲しいのだけれど?」
「そんなこと言わないで下さいよ、お義母さん!」
「お義母さん……!?」
「いやー、だってそうじゃないですか? 俺の嫁のお母さんだし! もうお亡くなりになってたから、一生言えないと思ってたけど、機会を頂けて光栄ですっ! でも、別にハリスには感謝してないけど……。」
「は、はあ……。」
ああ、なんか彼らしい考えだな。言いたかったのね、”お義母さん”という言葉を。彼からしたらずっと望んでいたことなのかもしれない。彼は孤児だったというから、本当の母にさえその言葉を言ったことがないはず。きっと希望が叶えられて嬉しいんだと思う。場違いな気はするけれど、その行為には救われた思いがした。
「あなたは何に対して異議申し立てをしたいのかしら? ただ茶々を入れたいだけなのなら許しませんよ?」
「ちょっと待ってよ、お義母さん! 俺が邪魔するからには取って置きのゴシップネタがあるんですよ!!」
「ゴシップ? 余計な噂話には付き合いませんよ?」
「いや! 噂とかじゃなくて本人の口から聞きましたから、信憑性は高いです! ていうかマジの陰謀ですから! マジの黒幕から話を聞きました!」
「黒幕? 一体、何のこと?」
彼の言葉に周囲がざわめいていた。反応を示していないのはエピオン達親子。彼らは息つく暇もなく戦いを続けている。それほどに皆の興味を集めていた。それほど、”黒幕”というキーワードには惹かれるものがあった。
「エルと闇の力を巡る話には、裏で操る黒幕がいたから起きたことなのです。その黒幕とは……蛇の魔王、シャロットだったのです!!!」
「な、なんだって~!!??」
確かにあの魔王は叔母さまを操り、私を陥れようとしていた。それはわかる。でも、このタイミングで話を挟んでくるということは、母にも関わっていたということ? その疑問は今から明かされるのだろう。期待を込めて、彼の発言に聞き入る事にした。




