第422話 第6の”覇”
「ならば、妾が相手をするとしようか。」
若い衆が次々と負傷し倒れる中でまともに戦える者は妾のみとなってしまった。幸い死人は出ていないが、回復魔法を使える者が不在のため、回復は妾の持つ霊薬のみとなっている。
それ故、回復力は問題ないものの即効性に欠け、回復を待つこととなってしまった。羊が絶え間なく刺客や軍勢を送りつけてきたのも、このパーティーが瓦解することを狙ってのことであろうな。
「アンタがか? じゃあ火力全開で辺りは焦熱地獄に変わるのか?」
「アレはアホ娘を焚き付けるためのハッタリみたいなものじゃ。そんな節操もない戦い方はせぬ。」
「嘘やったんかい! ビビり散らしてた私の気持ちはどうなるんだ、ゴルァ!」
「ハッタリではあるが、流れ弾が運悪く当たって消し炭になる可能性はあるかもしれんのう?」
「ひょえっ!?」
ハッタリとは言っても、あくまでそのような愚かな使い方はせぬだけ。実際に迷宮を丸ごと焼き尽くすことなど容易いこと。だがそんな魔術は戦闘用とは呼べぬ。ただの破壊でしかない。対人用の魔術は他に用意してある。ロア達から離れている間に研究し、鍛錬して体得した術がある。
「魔術を使うのだろう? 我が拳術に対抗できると思っているのか? アンタが撃つ前に俺の拳がその体を捉える事になるだろう。」
「心配せずとも良い。妾も戦闘用に特化した魔術を用意している。これは妾独自の物、流派梁山泊の技法を参考にした物じゃ。」
「アンタが例の流派の技を使えるって? 魔術師なのにか?」
「左様。かの流派は拳、剣、槍、矛、刀の五つの闘法を極め、そのそれぞれの体系を”覇”と呼んでおる。その中には含まれない独自の”覇”、第6の”覇”ともいえる体系を独自に編み出す事に妾は成功したのじゃ。」
「え? 魔術を武術に? ……???」
やはり二人とも、妾の思想には見当もついていないと見える。魔術を戦闘用に特化させる……これだけ聞くと、戦闘に魔術なんてすでに使われているではないかという話になる。だが厳密に言えば、魔術は戦闘に特化している訳ではない。
昨今に見られる魔術はあくまで破壊の手段、破壊でなくても相手に危害を加える様に応用して使っているに過ぎん。唯一、”風刃の魔術師”が体現しているとも言えるが、あれもあくまで魔術。あれは魔力で武器を作り、剣術に風の魔力を纏わせているだけだ。武術の補助として使っている以上は武術とは呼べぬだろう。
「一度見てみなければどのような物かわからぬであろう? まずはやって見せようぞ。」
一つ宣言し、右手の人差し指と中指に魔力を集中させ、頭上に振り上げた状態で構える。剣術で言うところの”上段の構え”と言った所じゃな。この技は”破竹撃”を参考に編み出した物。自然体で余分な力を抜き、一気呵成に振り抜き対象を断ち割る。それを魔術で再現した。
「戦技一0八計番外、烈閃波!!」
(バシュッ!!!)
「何!?」
「うわっ!? 何コレ!?」
目の前の石床を切り裂いて見せた。炎の魔力を収束させ高い威力を実現しながら、破壊の範囲を最小限に留める事に成功した。もちろん可燃性の素材が対象であろうと無駄に延焼したりはしない。瞬間的に魔力を炸裂させているが故に対象以外への影響を少なくしているのだ。
「これ……あの”破竹撃”とかいう技にそっくりじゃん!」
「左様。あの技にインスパイアされた物じゃ。魔術で再現するために研究を重ねた”魔技”とも言える新たな闘法じゃ。」
「対人戦闘に特化した魔術か……。面白い物を見させてもらった!」
二人とも”魔技”の効果を食い入るように見つめている。これで妾が武術家相手にも対等に渡り合えると証明出来たはず。拳王は流派梁山泊と戦いたいという欲求を持っているが、これならば曲がりなりにもその希望に応えることが出来るのではないだろうか? とは思いつつも拳王の様子を見てみれば、何か様子がおかしい。何やら異変を察知したようだ。
「……何者かがここにやって来る!」
「え? なになに? 今度は何が起きるの?」
「まさか羊の寄越した援軍か?」
「あっちからだ! 来るぞ!!」
(ドッゴォォォォォォン!!!!!!!!!)
塔の壁を突き破り、何者かが現れた! 瓦礫の破片が視界を遮り正体がハッキリと確認できるまでに時間がかかった。どす黒いオーラを纏ったその気配はゆっくりとこちらに近付いてきた。怒りの表情を象った悪鬼の面……こやつは”トウテツ”という名の鬼ではないか!
「龍の娘よ、見事な技を見せてもらったぞ。うぬも我と戦う資格を得たり。」
「逃げ帰ったと思うておったが、まだ近くにおったのかえ?」
「”魔”の気配を感じた故、傷が癒えぬども、この地に留まったのだ。この地の”魔”と相対するためにな。」
「何者かは知らぬが、強き武の気配! 面白いことになってきた!」
予期せぬ者の乱入! 逃げ去った後はおとなしくしていると思っておったが、魔族共に興味を示していたとはな。戦うことに酔いしれた愚か者だとは思っていたが、傷の癒えぬ体のままでまんまとやって来るとは思わなかった。これは吉と出るか凶となるか、予測の出来ない展開になってきおったわ!




