第419話 学べなかった者の末路
「”爆”竹撃!!」
(ドゴアッ!!!)
「むうっ!」
適した武器、それどころか使い慣れていない武器での技とはいえ、凄まじい威力だった。とはいえ、私が今まで見てきた流派梁山泊の技の数々とはかけ離れ、その本質を逸脱している様に感じる。ゲイリーの技はあまりにも”破壊”に重きを置きすぎているのだ。
「エドちゃ~ん? 逃げてばっかじゃないの? バッカじゃないの? やっぱ負けたときのトラウマがあるから、避けるしか考えられないんじゃ?」
「そのような戦いを強要されるのは心外だからな。君の技はただ相手を壊すことだけしか考えていない。そのような相手は敬遠するのが定石だよ。」
「ま~た言い訳しちゃって! そんなへっぴり腰じゃ、遠吠えしか出来ないよ? キャンキャン!」
「私は戦いを”対話”だと捉えている。対話をする気もない者を相手にする気はないのだ。」
互いの実力に差がある場合は対話が成り立たない。では、どうするか、と問われれば相手に強者の方が強さを合わせればよい。対話の目線を揃えることによって対話の関係が成立する。その上で相手の戦い方を見て考え方や目的、信念を垣間見ることが出来るのだ。
「”たいわ”? 鯛は? 鯛と言ったら鯛めし、尾頭付きでしょうが! 喰うならまだしも、喰われるのは避けたいもんだねぇ! 鯛・鮭茶漬け!!」
「君は相手をからかい、揚げ足を取ることしか考えていないようだ。相手を罵り優位に立つことで、全ての主導権を獲得しようとしている。」
「唐揚げ? 揚げ出し豆腐? 鯛・鮭のへるしぃ~路線はどこ行った? 今度は揚げ物万歳、ハイカロリー路線で勝負ってか? 俺っちとしては串揚げがオススメですけどぉ?」
ゲイリーは間合いを取り槍の穂先をこちらに向け、狙いを定めるような構えをとった。ここから繰り出されるのは恐らく突進からの突き技のはず。この技にはあの技で返すのが一番だろう。私自身も受けの体勢に入った。
「まずは串打ち……猛虎、”爆”虎衝!!!」
(ド、ド、ド、ド!!!)
まるで怒れる牡牛の突進のようだった。もとの技、”虎穴獲虎衝”はもっと鋭くスピードを重視した物だったはずだが、彼の妙なアレンジのせいで別物に成り果てている。見るに耐えない。だがそんな力任せの技である方が私にとっては都合がよかった!
「フェンス・オブ・ディフェンス!!」
(ガシイッ!!)
「んな!? 技が捕まった!?」
「その通り! この技は相手の踏み込みを捕らえ、その勢いを利用して投げ返すカウンター技だ!」
相手を抱え込んだままで、後方へ倒れ込む様に相手の脳天を地面に叩きつける。叩きつけると同時に爆発が起きるが、構わずにそのまま投げつけた。爆発の衝撃により投げの威力は落ちているだろうが、爆発の衝撃で弾き飛ばされた床材の破片が浴びせられる結果になっている。
「ぼぼべぁっ!!??」
「どうかな? 君自身の技の威力を味わった感想は?」
投げ技としての効果は薄かった物の、彼自身の技の効果が反面、自らを傷つける結果になった。しかも、ここは屋外ではなく建造物の中。石造りの床材は散弾の石礫となって彼を襲ったのだ。無惨にも無数の破片が体に突き刺さり、おびただしい流血を促す結果となった。高い威力が返って自らを傷付ける事になろうとは彼自身、予想していなかったに違いない。
「ヒドイ! ヒドイわ! エドちゃんったらヒドイじゃない! 俺っちの技をおとなしくぶちこまれてれば良かったのに、俺っちを罠に嵌めるだなんて卑怯よっ! 卑怯千万、バンババンじゃないのよぉ!!」
「これがカウンター技というものだ。君の習得した剣技には存在していなかったかもしれないが、同じ流派の体術には似た原理の返し技が存在しているのだ。私は宗家の最高峰の技術をその身で味わったからこそ体現できたのだ。」
大武会……あの時、私がそれまでに身に付けた全てが通じなかった。ジン・パイロン、かの流派の宗家。素手ながら私の剣技の切れ味をもはるかに凌駕した技の数々で地面に叩き伏せられた。技術を極限まで磨けば世界中のいかなる武器をも上回る強さとなる事実を見せつけられた。
「キイッ!! 負け犬根性なんかに負けたって言うのかよ!! チクショー!!!」
「残念ながら、”勝ち”から学べるものというのは案外少ないものだ。”負け”からの方が学べることの多さに比べれば些細なものでしかないのだよ。」
彼に追い付きたいと私は願った。しかし、容易にそれは叶わないと言う現実がある。ならば少しづつでも、一歩づつでも近付くための鍛練を怠らなければ良い。彼のいる領域にいつか到達出来ることを信じて日々邁進し続けるのみだ。
「”勝ち”の方がいいに決まっているじゃない! だって勝ったら自尊心が更に強固なものになるし、勝ち癖ってのがついて次の勝ちに繋がるんだよぉ! 勝ちの価値を舐めんなぁ!!」
「確かにそれは間違いではないのかもしれん。だが”それ”だけ。勝っただけでは自身を鑑みることは出来ぬし、相手の技術を尊重し学び、自己の技術として取り入れる学びの機会を失ってしまうからな。」
「でも負けたら終・わ・り! 死ぬんだよ? 死んだら何の意味もない! 生き残っても”負け犬”の烙印を押されて負け組確定! 負け犬は人権なんてないんだよ! 糞味噌にこき下ろされてクソ雑魚ナメクジのウジ虫う○こ人生確定なのよ!」
「それは敗けの感情に囚われたままだからだ。冷静に”負け”というものを分析し生きる糧にしてこそ、真の強者になれるのだ。」
「mヴぇんヴぃおrふじこあこmこj!!!!!!!!!!」
「やれやれ。君は一体、彼から何を学んだというのだ? 勇者ロア、彼こそが私が今話した事柄を体現した理想の戦士なのだ。彼に師事していた君は何を見ていたのだ?」
彼は技を盗みとることしか考えていなかったのだろう。その精神性を学びとることに価値を見いだしていなかったからこそ、このような事態になったのだ。精神性を学んでさえいれば、羊の元へ帰還することなど考えなかっただろう……。




