第413話 ”6”を返せば”9”となる!!
「とうとう終わりの時間がやって参りました! 処刑隊、断頭台のブレンダン、最後の時! 最後の瞬間をとくと御称賛あれぃ!!」
「チッ! 調子に乗りやがって!」
この俺を追い詰めたことを良いことに、あのタマネギ頭は狂ったように劇仕立てな口上を連呼している。次の一撃で止めを刺すつもりなんだろうが、俺にはまだ底力が残されているってことを計算に入れていない。武器は壊れようと、俺には義手が残されているんだ。
「じゃあ、最後に大技見せてやんよ! 流派梁山泊ぅ~、究極奥義ぃ~、」
「パチもんのクセにいちいち仰々しいんだよ!」
「爆裂、爆刃!!」
来た! 例の奥義とやらが! 技の攻略宣言をした上で破る最初の相手が、弟子もどきの技泥棒になるとは思っていなかった。だが予行演習にはちょうどいい。俺の考えが合っていれば、この技は止めることが出来るんだ。
「きょえぁぁぁぁぁっ!!!!」
「如何にその技が強かろうと、発動前に止めちまえばただの不発弾よ!!」
(ガギッ!!)
技のセットアップ、上段に構えた後に振り下ろす瞬間を狙う! 瞬間的にタイミングよく相手の懐に飛び込み、剣を握った拳をフェイタル・ギアで鷲掴みにする! こうしてしまえば技の発動は失敗し、そのまま手を握りつぶせば戦闘不能にもなるってわけだ!
「どうした? 奥義を食らわせるんじゃなかったのかよ?」
「ふんぎぃ!? 卑怯な! 予定調和を台無しにしやがってぇ! 空気読めよ!!」
「これが俺の考えた八刃破り! ”勒を外せば窮となる”だ!!」
(ギリギリ!!)
掴んだ手がミシミシと悲鳴を上げているのが分かる。このまま握りつぶせば、この男は戦闘不能になる! 奥義で俺に止めを刺すつもりが一転して窮地に陥ることになったのだ。俺の武器を壊してくれた代償をキッチリ返させてもらう!
(グシャッ!!)
「ぎにゃああっ!!??」
「一丁上がりだ!!」
「許さんぜよ! 食らえ、爆裂キック!!」
(ドッゴァァァァン!!!!!)
「ぐうっ!?」
手を握りつぶし、次はパイル・バンカーを打ち込もうとしたところ、相手はあろうことか最後の悪あがきをしてきた。爆発を伴う回し蹴りが放たれ、幸いガードは間に合ったものの爆風によって壁際まで吹き飛ばされる結果になった。往生際の悪い奴だぜ! もっともそれは俺にも言えることだがよ。
「くっ!? やってくれるぜ! せっかくの止めのチャンスを逃してしまった!」
「逃したチャンスを逃したのは俺っちの方だぜ! 今度は逃がさんぞぅ!!」
爆風で不明瞭になった視界から飛び出してきたのは奴だった。潰れた手で何を……と思ったら、剣を握っているじゃないか! なぜだ? 潰れたはずの手が元に戻っている! 再生、回復をするにしてはあまりにも早すぎる! 一体、コイツの再生能力はどうなっているんだ?
「さあ、お待ちかね! 今度こそ止めの時間です! 今度は究極奥義を使ってやるぅ! 必殺、爆破……爆裂爆刃斬!!!!!!!」
いかん! まだこっちは体勢を崩したままだ! さっきみたいに技の阻止が出来るセットアップに入っていない! 今からでは間に合わん! このままでは本当にくたばってしまう! どうすりゃあいい?
(バギャッシャァァァァァッ!!!!!!)
「ぎょえぁぁぁぁっ!!!!!!!!???????」
爆発の爆音の代わりに聞こえてきたのは、強烈な破砕音。肉を圧倒的な質量、強烈なパワーとスピードを以てして叩き潰したような音が響き渡ったのだ! 奴は右側面から何かによって攻撃され、上半身の右側を大きく欠損しているではないか! 一体何が起きたのだ?
「どうした、断頭台? 魔族は徹底的に抹殺し尽くすんじゃなかったのか? 処刑隊の名が泣くぞ?」
「て、てめえは……!?」
何故だ! コイツは俺が殺したはず! 俺の処刑技によって体を貫かれ絶命したではないか! 犬の魔王! 確かな手応えはあったというのに何故生きている? 生きていられる? 魔王とはいえ心臓、デーモン・コアを破壊されれば生きてはいられないはずなんだ!
「なんで生きてるって、顔をしてるな? 甘いよ、アンタ。俺はそう簡単に死なないから。」
「タンブル!! 生きてやがったのか! 心配させやがって!!」
「ダンチョーさんが生き返った!? 良かった、生きてたんだね!」
俺の理解が目の前の現実に追い付いていない。俺だけじゃない奴の仲間、犬共でさえ驚いてやがる! これは予定調和ではなく、仲間でさえ欺いていたと言わざるを得ない。タマネギ頭でさえ気付くことなく最後の一撃を妨害される結果となった程だ。この場全ての者を欺く芝居を打ちやがったんだ! 死んだフリが得意な魔王なんて聞いたことがねえ!
「あり得ない! コアは俺が処刑技で打ち砕いたはず! なんで生きているんだ?」
「そんなのアンタの勘違い。予備のコアを壊しただけだったんだよ。アンタ、オレのコアの本体に気付いてなかったんだな。」
「コアの本体? そんなもん、どこにあるって……!?」
俺は疑問に思い、辺りの気配を探ったがそれらしい物は見当たらなかった。が、最終的に奴の方へと視線を戻したとき、俺はある可能性を考えた。まさか奴のコアの正体はアレじゃあるまいな?
「やっと気付いた? これだよ、オレのコアは。この武器、狩人の破砕槌がコアその物なのさ。」
奴の武器がデーモン・コアだと? 大胆なマネをしやがって! 本来弱点であるはずのコアを武器として使っていたとは! この俺がとんだ思い違いをしていたぜ。そりゃあ、死んだフリをされても気付かないはずだ。随分と焼きが回っちまったモンだな、この俺も……。




