第409話 父の素性
えっ! 今なんて言った? 身内だったの? しかも父親……。そういえばコイツの家族の話なんて今まで聞いたことない。少なくとも本人からは。エルるんからは断片的には聞かされた。片親育ちで闇に親子共々、体が闇に侵食されていたから迫害されてて貧しい生活をしていたってことは知ってる。
「あの男はお主の父上であったか。高名な騎士だったのだな。お主の剣の腕は父から引き継がれておるようだ。」
「そんなことわかりゃしないさ。オレは父親から剣など習った覚えはない。」
「父から学んだ物ではないと?」
「一つも学んじゃいない。当然だ。オレの父親はオレが物心つく前に死んでいるんだからな。」
「なんと……!?」
なるほど……。片親育ちと話していたのはこのためだったのか。だから顔すら見たこともないし、声も聞いた覚えがなかったのか。名前を聞いた瞬間動揺していたのはそういう理由があったのね。でも名前だけで正体が父と確定したんだろう? 名前なんてそこまで珍しい感じでもないし、たまたま似たような鎧を使いこなせてただけかもしれないし……。
「お主は父上の顔は見ていないのであろう? 名前を聞いただけで父と確信した理由が他にあったのではないか?」
「親の経歴はさっき話した通り、神殿騎士団の人間だった。だが、オレの父はある罪により処刑される事になった。」
「お主の父上は罪人だったのか。」
なんか家庭環境が最悪になったのは父親のしでかした事が原因だったわけ? でもよっぽどなんじゃない? 闇に侵食されて迫害されるまでに至ったんだから、悪魔崇拝でもしてたとかじゃないと説明が付かない。教団の、教皇直属の騎士団にいたんだから何かとでもないことでもやらかさないとこんなことにはならないはずだよね?
「父上の侵した罪とは何か? 反逆罪? それとも教団と敵対する勢力と通じていた等の罪状でなければ、一族郎党貶められる事になるはずもない。」
「アンタの言うことは尤もだ。多少の罪では降格、追放程度で済む。オレや母がまでもが罪を問われる結果になったのは……内部告発をしようとしたからなんだ。」
「天翼騎士に関する告発か?」
天翼騎士が本当にいたなんて今日初めて知った。て言ってもまだ本物を見てないから何とも言えないけど……。デーモン・アーマーは天翼騎士の鎧を真似して作ったとか言ってたけど本当なのかな? アレってデーモン・コアを使ってるんだし、似ているっていうことはつまり……?
「ああ。それに関してだ。教団が魔王共と同様の力を使っていた。しかも製造すらしていたという事実を告発しようとした。天翼騎士を務める上で父は自分たちのしている事に疑問を感じたのだそうだ。母から聞いた話では正義感あふれる騎士だったと、誇らしげに語っていた。本来守るべき家族すら貶める原因を作った男だというのに……。」
名誉のあるエリートに上り詰めたのに、その組織が魔王と同じ物を持っていてそれを作ってさえいたら、流石に胡散臭く感じるよね。悪魔の力を以て神の奇跡だと言い張って人々を騙してたんならね。そこはわからなくもない。その行為は私の憧れるエシャロットさんの活動に通じる物があるし……。
でも、家族を危険な目に遭わせてまで……って考えると、そこまでしてやるようなことだったのかって疑問は出てくるよね。息子がこんな根性のねじ曲がった根暗になってしまったのを見るとね……。
「立派な父上ではござらぬか。」
「何を言うか! オレと母が味わった地獄を知ればそんなことは口が裂けても言えない! しかも告発に失敗したから、その行為には何も意味はなかったんだ! ただの負け犬、しかも今は魔王にこき使われている! こんな滑稽な結果が他にあるというのか!」
「お主の父上は告発に失敗し処刑された。その上で家族であるお主ら親子を貶める刑まで下すとは……。恐ろしい組織よな、教団という物は……。」
罪を被せたっていうこと自体に教団の極悪さが見えてくるよね! だって親子を闇汚染して追放してしまう位だからね。こうなると他にもエピオンの様な目に遭った人たちがいるのかもしれない。
特に闇に汚染された人々を教団が影で迫害して、浄化し、この世から抹殺しようとしているって噂があるしね。その理由も口封じだと考えれば納得がいく。表向きは悪を滅するという慈善活動だって言っていくらでも誤魔化せるし。やっぱ教団は胡散臭いよね。
「お主が教団を敵視している理由が知れて良かった。知った上でお主の行いに積極的に力を貸すと拙者は宣言する。」
「フン。別にオレは他人に同情を求めるためにこんな話をしたんじゃないぜ。オレの復讐を、このどす黒い思いをぶちまけたかっただけだ。誰にも邪魔させはしない。」
その復讐の感情は父親にも向けられてるんだよね? なんか嫌だな。せっかく生まれて初めて巡り会えたっていうのに、敵同士だなんて……。しかも、父親の方は明らかに息子に対して何か教育的な事をしようとしている様に見えた。敢えて憎ませる様に仕向けて、デーモン・アーマーの真の使い方を伝えようとしていたのかもしれない……。




