牛頭の魔王
「魔王……!?」
横で聞いていた俺はその言葉に驚いた。こんなところでその言葉を聞くことになるとは思ってなかったからだ。
「せや。通称、牛頭の魔王や。なんでも、大昔にダンジョンごと封印されとった、悪名高い魔王なんや。」
「ええっ!?昔、そんなことあったの!」
「魔王戦役時代ほどでもないけどな、ひどかったんやで、当時。……20年前は死の町と化したぐらいやで。ホンマ、災害級の出来事やったんやで。」
そんな事がこの町であったなんて!今の賑わいの様子からは到底想像できなかった。
「そんで、大規模な討伐隊を組むことになったんや。兄ィちゃんの二代前の勇者が発起人になってな。」
「二代前の勇者が!?」
俺の二代前……ってことは俺に額冠を託したカレルさんの前の代の人ってことか。
「勇者シャルル……?」
何言ってんだ、俺!そんな名前初めて聞いた。それなのに自然と口から出てきた。……もしかして、額冠がそうさせたのか?
「せや。シャルルや。シャルル・アバンテ。今はクルセイダーズの幹部をやっとるらしいな。話逸れるから、そいつの話は別の機会にでもするわ。」
二代前の勇者の名前に間違いなかったようだ。時々、無意識的に自分が知らないことを言ったり、やったりすることがある。これも額冠の力なのだろう。
「そんで、その討伐隊にワシとお嬢ちゃんの母ちゃんが参加しとったんや。」
「母が二代前の勇者様と一緒に戦っていたんですね。」
エルちゃんのお母さんも参加していたのか!親子二代で勇者に関わることになったわけか!すげえ!運命的な物をビンビン感じるぜ!
「あんたの母ちゃん、すごかったんやで。おらんかったら、死んでた人はもっと多かったやろなあ。ワシもその一人なんや。」
エルちゃんからはすごく魔法の才能を感じるけど、お母さんもそうだったのか。
「なんでも、補助の魔法が得意な人でな、魔法障壁とか武器強化の魔法には、ホンマお世話になったモンや。」
「ほう、確かにその方が有効かもしれぬな。魔族相手ならば。攻撃の魔法は効きにくい故にな。」
サヨちゃんが横から解説を加える。魔族の魔法障壁のせいで神聖魔法以外は効きにくいというのは前に聞いた。
「まあ、話し始めたら長なるさかい、端折るけど、ワシらは魔王の討伐には成功したんや。……でもな、あんたの母ちゃんは最後の最後で大怪我をしてもうたんや!」
急展開だ!お母さんが最後に大怪我をしてしまうなんて!不運すぎる。
「魔王の奴が最後に悪あがきをしおったんや!勇者が最後の一撃で致命傷を与えたんはよかったんやけど、力使い果たして動けんようになってしもたんや。」
「それでどうなったの?」
「その隙を突いて魔王が道連れ狙いの攻撃をしてきおった。そんとき、それを庇ったのが、お嬢ちゃんのお母さんやったんや!」
「母が勇者様を……。」
エルちゃんは絶句していた。無理もないか。それだけのことを聞かされたんだから。
「それから、仲間の神官が総掛かりで治療をしたさかい、なんとか一命は取り留めたんや。……でも、何年かして亡くなりはったいうことは後遺症が残っとったんやろな。」
そうだったのか。悲しいな。魔王を倒した英雄がそんな最後を迎えたなんて。
「なるほど。そういうことか。」
サヨちゃんが急に何かに気付いたようだ。何の事だろう。
「エル坊のデーモン・コアの出所はそこにあったのじゃな。魔王討伐の最大の貢献者じゃというのに、なんという皮肉な話じゃ。親子二代に渡って苦しめることになろうとは。往生際の悪い魔王じゃ。」
まるで呪いだった。その結果、エルちゃんは殺処分されかけ、危うく自身が魔王になるところだった。まるで踏んだり蹴ったりだ。魔王ほど許しがたい存在はいないだろう。
「そうなんか。大変やったんやな。そんな言葉で表すのが安っぽうなるくらいに。」
「いえ、そんなに気にしないで下さい。誰も悪くないんですから。」
暗くどんよりとした空気になってしまった。……ここはなんとか空気を変えねば!
「……で、話は変わるけどさ、今度行くダンジョンってどんなところ?何しに行くの?」
「せやな。その話でもしよか。でもな、今までの話に無関係かって言うと、そうでもないねん。気ィ使ってくれたのに悪いけど……。」
うっ!まさか墓穴を掘ってしまう結果になろうとは。一体これから、俺たちに何が待ち受けているんだろうか?