第368話 戻って来ちゃった……?
「揃いも揃ってビビりまくってやがるようだが、俺には何のことだかさっぱりわからんね。」
エドワードとかいう鎧の男は目の前の男が故人その者だということに驚きつつも、敵側のリーダーと一騎討ちに及んでいる。残りの雑魚は俺たち全員を倒そうとしているようだが、なにもわかっちゃいない。その気になりゃあ、まとめて全部相手にしてやってもいいくらいなのにな。律儀に過去の決着とやらを優先させたいようだ。やれやれ。
「かつての英雄が蘇ってきたのです! あなたには縁のない方でしょうけど!」
「大変な事になってきたのニャ!?」
神官の美人さんと猫獣人の戦士は俺に注意を呼び掛けるがイマイチピンと来なくて困っている。戟覇の俺は傭兵として雇われ西の国のいざこざに巻き込まれてしまったわけだ。しかし目の前の出来事も建物が行きなりそびえ立った事に比べれば印象は薄いと言えた。
誰それが蘇ったとか言われても、その人間を知らなければただの敵でしかないのだ。お知り合いが復活して敵に回ったのだとすれば、知らない方がやり易い。やりにくいとえいうのなら俺がやるしかない。
「異国の者か? 気の毒なものよ。我らアスチュート隊の名声を知らずに我らと戦う羽目になろうとは!」
「うん。知らん。でも、俺もちょっとした名のある武人って言ってもアンタらも信じないでしょ?」
「ハハ、自ら名のある者だと自称するとは! どこの馬の骨とも知れぬ者よ、我らの強さを重い知るがいい!」
全く、恐れを知らないってのはおめでたいもんだ。コイツらは確かに腕は立つかもしれない。だが、梁山泊の一般的な門下生と同程度といったところだろう。実戦経験がありそうな分だけマシな方かもしれない。俺の相手をするにはほど遠い。先頭の意気がった野郎の攻撃を軽くいなしてビビらせてやるとしよう。真正面からの突きをこちらも単純な突きで返す。
(シュパァァァン!!!!)
「なっ……!?」
敵さんの槍と俺の矛が交差しけたたましく爽快な音が鳴り響いた。あまりに俺の技がキレ過ぎていて何が起こったのかわかっちゃいない。目の前のヤロウだけじゃない。敵味方に至るまでの全員が目の前で起こったことの凄さに誰一人として気付いていない。
「ハハ、大袈裟に音が鳴り響いただけじゃないか。どうということはない!」
「あらそう? おたく、自分の武器ががらくたに変わっちゃってるのにお気づきではないのかな?」
「な、何を……バカな!?」
槍は先から石突きの部分まで縦に真っ二つ。真っ正面から正確に合わせてそのまま切り裂いてやったのだ。相手の力を利用して自分の力をうまく調整しないとできない芸当だ。ま、俺は息をするように簡単にやっちゃうけどね! 凡人には何が起きたかすらわからんのよ!
「わかった? これで俺とアンタらの腕の差は天と地ほど離れてるのがわかったでしょ? 大将も呼んできた上で挑むことをお勧めする。」
「馬鹿にしおって!」
もうさ、これくらいでわからないなんて身の程を知らなさすぎない? こっちとしては繊細な誇りとやらを壊さないように、丁寧に割れ物を扱うように軽~く牽制してやったのに、やる気になっちゃったみたいだわ。困るねぇ。誇りとやらが撤退を許さないんだろうね。そんなだから、死んだんじゃないの?
「我が隊の誇りに賭けてでも絶対にたお……、」
「どぅわあああっ!!!???」
敵さんがやる気になって束でかかってこようとしたときに、突然何もないところから眼鏡が出現した! 眼鏡に付属した人間! 俺にとっては将来邪魔になるあの眼鏡に付属した人間が、戻ってきてしまったようだ。そのまま出てこなかったら良かったのに。
「な、な、な、なんだこの状況はっ!?」
「え~? それ自分が言っちゃう? アンタが突然現れたことの方がおかしいんだけど?」
「良かったのニャ! 消えていなくなったから心配になっていたのニャ!」
「ということは賢者様が救出に成功したということですのね。」
「なんか知らんけど、恥ずかしながら帰ってきました!」
なんか常に存在感がなかったもんだから発覚が遅れたんだけど、若はいつの間にか行方不明になっていた。発覚したのは他の部隊の仙女の人から連絡があったからなんだが、人員が何人か急に行方不明になってしまっていたそうだ。
その中にシャンリンが含まれていたもんでちょいと冷や汗が出た。そんな状態で国に帰ったらあの爺いにどやされるのが目に見えていたからだ。若が助かったって事はシャンリンも無事だと思われる。若はどうでもいいけど。
「ええ? 帰ってきたのかよ? 帰ってこなくても良かったのに。」
「なんだ、その言い方は! 梁山泊の次期当主が帰ってこなかったら大問題だろうが! 少しは心配しろ!」
「ちっ! めんどくせえなぁ。結局、無血開城で当主の座は手に入ると思ってたのにさぁ。これは流血は避けられんわ。俺は一滴も流す気ないけど。」
「コラ! しれっと当主の座を奪うとか言うな! オレは別に弱くないぞ! お前なんか余裕で流血まみれにしてやれるわぁ!!」
やれやれ。立場のわからんお子ちゃまめ。お前みたいなのはちょっと軽くやったら倒せるってことを全く理解していない。あ、そうだ! 良いこと思い付いた。そこにいる明日厨なんとかっていう連中の相手を若に任せちゃえばいいんじゃない?
「じゃあさ戻ってきた事に対しての罰ゲームとして、そこのお兄さん達の相手をすることを命じる! 失敗したらもれなく俺が次期当主ね?」
「コラァ! 災難から逃れてきたオレにいきなり試練を与えるなぁ! 少しは労れよ!」
「何? こんな小僧の相手をしろというのか!」
まあこれなら、つまらん相手をする必要はなくなるし、ワンチャン、ウマイこといけば若もくたばるかもしれんので、俺が得する訳よ。まあ、よく言う故事成語、”漁夫の利”と言う奴だね。こんな上策、即興で思い付くなんて俺ってマジ天才だわ。




