第363話 ジム・ロック・スペシャル
「どひゃひゃあ! 潰せ潰せ、潰し殺せ! 相手は二人、今の内に倒しときゃあ、全滅させるのも夢じゃないぜ!!」
塔の内部に二人っきり取り残される形になった、ヴォルフさんとこの僕、ジムは魔王の尖兵たちに苦戦を強いられていた。魔王の罠により行方不明になってしまった三人を救うために異空間へとサヨさんが向かってしまったため、僕たち二人で残る羽目になったのだ。
「ドスコーイ! オイ達を簡単に倒せると思ったら、そう簡単にはいかんバイ!」
「中でも段違いのタフさを持つ僕たちを相手にしているんだから、覚悟はしてもらわないとね!」
ヴォルフさんは独特の体術を身に付け屈強な体を持っているし、僕は生身の人間ではない。最新鋭の戦闘用ゴーレムの体を持っているので、ちょっとやそっとじゃ倒れはしない。体が損傷しない限りは人間とは比較にならないほどの稼働時間を誇っているのだ。
「お前は元弱虫コムシだった分際でイキりやがって! 二度と立ち上がれないようにゴミクズにに変えてやるからな!」
格闘戦タイプのゲイリーさん、いやオニオンズと組み合って、お互いを組み伏せようと力比べをしている真っ最中だ。彼らは以前のゲイリーさんとは違い、剣士タイプのみならず、魔術師や弓使い、武器を持たない格闘戦タイプなど様々な種類が存在しているようだ。それが六人パーティーを組んで二人きりの僕たちを攻めてきた。
「心は同じでも体の強さは段違いだ! こうやってあなたと組み合えるほどに腕力も増大しているんだ!」
今の自分がしていることが信じられなかった。元々小柄で腕力も少なかった僕が大柄な人造人間と互角に戦っている。体格だけでなく生まれも魔術師の一族だったので、魔術師を志すしか将来の道はないと考えていた。
そう信じて学院に入り勉強に励んだけど、逆に魔術の才能がないということが発覚し、挫折する羽目になった。学院には自分よりも遥かに才能に優れた人たちがいっぱいいて、対して自分の才能は平々凡々だという現実を突き付けられてしまう。
「以前の僕を知っているなら、今の僕がどれほど強いかわかっているでしょう?」
(ピキピキ!!)
組み付いたままで冷凍魔術を発動させた。組み付いた腕の部分から相手の体に霜がびっしりと付着していく。今の体でも問題なく魔術は使用できるので、格闘術と組み合わせれば絶大な威力を発揮できる。
「ぐおぁ!? 俺の腕がこ、凍っていく!?」
学院では絶望して自殺する所まで追い込まれた。そこでタルカスさんと出会いゴーレムの体を手に入れることになった。それ以降、タルカスさんと共に学院に反旗を翻すことになったが、計画は失敗し、僕自身も利用されただけで終わってしまった。
「コレだけで終わりじゃないですよ!」
「ぬわっ!? がっ!?」
腕を凍らせ、相手が混乱している間に、相手の股をくぐり抜け背後からのしかかるように腕と足をホールドした。これは僕の格闘術の師匠ジェイさんから伝授された組み技”ジム・ロック・スペシャル”だ!
「う、うごけないー!?」
二度目の挫折を味わった所に勇者さんは手を差し伸べてくれた。新型ゴーレムの素体には未使用の個体があったので、精神をそちらに移し替え、いっそのこと”魔法戦士”として新しい人生を歩んでみてはどうかと、提案してくれたのだ。生きる目的を失っていた僕はその提案を受け入れ、新しい人生を歩むことになった。
「これは蟻地獄ホールドと呼ばれている。下手に動けば、逆に技が極っていく。逃げるのは不可能だ!」
新たに手に入れたゴーレムの体、通称”Wー1”は汎用性に優れていて、様々な武器を使ったりして戦うことが出来る。武器を使わない格闘技も対象に入っていたので、これを選ぶことにした。
勇者さんがアンネ先生と戦っていた時に使っていた技や、僕を止める時に使った組み技”ジェイ・ロック・スペシャル”に惹かれ、その道を目指すことに決めた。後に勇者さんからその技は本来、相手と背中合わせの状態でかけるのが正式なものだと教えてもらった。その使い手はジェイ・ワイルドワンという人物だということも。そしてクルセイダーズ入団に便宜を図ってもらい、ジェイさんに弟子入りする事になった。
「ぐぬお! こんなの力技、筋肉力で抜け出してやるぅ!!」
「そう簡単に逃げられると思ってますか?」
(ビキビキ!!)
身動ぎする彼を抑え込むために冷凍魔術で凍らせにかかる。これで更に脱出は困難になった。こういう意味でも、僕の氷属性魔術と格闘術の相性は抜群だと言えた。
「こ、凍る!? 力が入らん!!」
ジェイさんに教わる内に格闘技の素晴らしさを知ることになった。見た目は力任せ、体格に依存した物が多いと思っていたけど、それだけに留まらなかった。特に組み技や関節技に関しては技術に依存することが大きく、元は体格に劣る人たちが他に対抗するために生み出した技術であることを知った。
むしろ元の僕の体に近い人たちが研ぎ澄ましていった武術があることに感銘を受け、更にのめり込んでいった。ジェイさんが僕を「魔術よりも格闘のセンスの方が抜群にある」と褒めてくれたことも大きい。
「このまま終わりにさせてもらいます!!」
(メキメキ!! グシャア!!!)
「ぎょうああああああっ!!!!!!」
後ろ手に取った両の腕を手羽状に真上へと絞り上げ、じょじょに相手の顔を地面に叩きつける体勢に持っていった。そこからさらに腕を方の真上に上げるようにしたところで相手の肩関節は外れた。腕を凍りつかせていたので同時に肘の部分からバッキリとへし折れた。これが”ジム・ロック・スペシャル”。完全に相手は戦闘不能になった。
「この調子で次々行くぞ! かかってこい!!」
あの時から僕の新しい人生が始まった。魔術師としては失敗したけど、格闘と氷魔術を組み合わせた魔術格闘士として生きていく事を決めたんだ。




