第347話 困難乗り越えたのにまた困難!?
「一体何があったんだ!?」
蛇の魔王を倒し、元の場所に戻ってきたら驚くべき光景が俺を待ち構えていた。俺と同行していたパーティーメンバーがみんな倒れている! エルもファル、レンファさんやメイちゃん、ゲンコツのおっちゃんまでもが倒れているのだ! 急いでエルの元へ駆け寄り半身を抱き起こし声をかける。
「エル! しっかりしろ!」
「……う…うう……。」
彼女は小さくうめき声を上げただけで、意識を取り戻さなかった。怪我をしているのかと思い、体を見てみれば体の所々に切り傷があるくらいで重い傷は見当たらなかった。ひとまず命に別状があるわけではないことがわかってホッとした。
「……お、お前、戻ってきたんだな?」
「ファル!」
横から声をかけられ見てみると、ファルが倒れたままコチラに顔を向けていた。意識は戻ったようだが、まだ立ち上がったりは出来ないようで苦しげに顔を上げながら俺に声をかけてきたようだった。
「何があったんだ? みんな倒れてるなんて、異常な事態だぞ!」
「お前がいなくなったこと事態も異常だと思うぜ。……まあ、コチラでも想定外の事件が発生したんだが……。」
「何にやられたんだ? お前やエルがやられるなんてよっぽどの事がないとありえないだろ!」
「そのよっぽどな相手が現れたんだ。聞いて驚くなよ。その正体はカレルだ。」
「は……!?」
こんな時になんて冗談を……。カレルっていっても俺の思っているカレルではないかもしれない。世界にもう一人か二人、それどころか何人だっているかもしれない。それほど珍しい名前でもない。割と一般的な名前だから、別人かもしれない。俺の知っているカレルが一人しかいないだけで……。
「は、カレルってどのカレルだよ? 俺の知り合いではたった一人しかいないから、わからないんだが?」
「冗談にしか聞こえないだろうが、お前の知っているアイツで合っている。」
「でも、彼は死んで……、」
そう死んだはずだ。俺の目の前で。現在の勇者としての姿があるのは、彼の死をきっかけに始まったものだ。旅の途上で偶然出会い、訳もわからず行きずりだった俺が後継者に選ばれ、勇者となった。俺の人生を一転させた”あの出来事”は一生忘れられない、先代勇者とのただ唯一のやり取りだった。少なくとも生前の彼とはそれっきりだった。
「そう、その先代の勇者カレルだ。」
「冗談はよしてくれよ! 洒落にならないぜ、そんな話!」
「間違いなく奴だった。昔から付き合いのあった俺が言ってるんだ。」
「でもカレルは死んで……俺が代わりに勇者を受け継ぐことになった! 死んだのにいるって、それはアンデッドじゃないか!」
「少なくともアンデッドではなかった。特有の気配は感じられなかった。間違いなく生身の人間だったんだ。」
「嘘だろ……。信じられないぜ。」
蛇の魔王が死に際に言っていた事を思い出す。”K’”がどうとか言っていた。羊の魔王が用意している秘策の事を指しているようだが、カレルの事を言っていたのだろうか? カレル…Karelと文字ではそう記載するが、その頭文字”K”を指しているのだとしたら……。しかし”’”の意味することとは一体?
「どういうわけかは知らんが生身のカレルだったのは間違いない。羊は人造人間を作り出す技術を持っている。もしかしたらその応用で”複製人間”を作り出したのかもしれない。」
「”複製人間”だって? 何なんだそれは?」
「人造人間が古代に発明され、倫理に反するという理由で禁忌とされている、というのは知っているな? それと同じく、いや、それ以上に禁忌とされた技術ってのが正にそれだ。」
人工的に生命を作り出す技術。それ故に神に仇なし、生命を冒涜しているとして禁忌の技術に指定され闇に葬られたと聞いた。ただでさえヤバイ技術だというのにそれ以上の物とは知らなかった。いや、だからこそ、その存在すら秘匿されていたのかもしれない。
「人造人間以上の禁忌があったなんて……。それはどんなにヤバイ技術なんだよ?」
「文字通り、人というか生物を複製する技術だ。普通、人ってモンは赤ん坊として生まれてくるんだが、そのまま同じ個体をもう一体作るような技術なんだ。双子、三つ子ってのを人為的に大人の状態で作り出す技術なんだ。」
「いきなり大人の状態の瓜二つの双子を作り出すってか? それ、ほとんど神の領域じゃん!」
「だからこそだよ。当初は食料問題を解決するために家畜の動物を短時間で増やすという発想から考えられた技術だそうだ。でも効率が悪かったからしばらくはお蔵入りになってしまったようだ。」
食料問題、特に食肉を生産するために考えられた技術なのか。確かに数を増やすとなると、子を産ませ、育てて大きくしていかないといけない。そこまでやるには年月がかかるからすぐには増やせない。
技術的に大人の状態から複製できれば便利だろうが、ハッキリ言って悍ましさすら感じる。その生命を食べることだけのために複製なんて大それた事が許されるんだろうか? いや、許されないことだから封印されたんだろうけど。




