第335話 抜かりはないわ。まだプラン”C”があるもの。
(ガギッ!!!)
俺を狙った槍での致命の一撃。それは何か硬質な物によって防がれた。見てみれば、それは俺の右腕だった。毒酸によって失われたはずの物が目の前にある。何事もなかったかのように見事に復元され俺を守ったのだ。
「な!? なぜそれが今ここにあるの? それは私が完全に破壊したはず!」
「さ、さあ? わからない。いつのまにか元に戻っていた。」
そうだ。ここにいる三人は確実に見た。毒酸を吐きつけられ、剣と共にボロボロに腐食し砕け散ったはずのものが元に戻っているのだ。よく見れば完全に元に戻った訳ではないようだが、芯の部分は元通りになり機能するほどに再生している。
「ハッハ! それ見たことか! 俺の忠告を無視するからこういう事になるのさ。」
「おだまり! あなたの発言を許可してないわよ! あなたに何がわかると言うの!」
「むしろわかってないのはアンタだけさ。いや、そこにいる馬鹿も同じか。やらかした本人が一番わかってないかもな。」
「悪かったな!」
パッチラーノはこうなることを予見していた? 「忠告した」と言っているのでいずれはこうなるであろうことを理解していたのだろう。俺本人すらよくわかっていないのに。とはいえ、うっすらと理由がわかってきたような気がする。それは”鬼”との戦いで起こった現象によく似ているということに気がついたからだ。
「何故、こんな能力を持っているの? 今まではなかったはず! ”勇気の共有”は封じているはずなのに、”自己再生”が発動するなんてどういうことなの!」
「やっぱ見てなかったんだな。この馬鹿が”鬼”と戦ったのを知らなかったんだろ?」
「知らないわね、そんな、何処の馬の骨とも知れないはぐれ魔族の事なんて知ったことではないわ。私達に劣る者との戦いなんて、取るに足らない情報よ!」
「その、取るに足らない一戦、たった一戦でコイツは新たな能力を開眼させた。それを知らないとはとんだ情報弱者だな。情弱者め!」
「きいい! たった一回ぐらいで何が変わるというのよ!」
一戦とはいえ、アレは大きな戦いだった。俺ただ一人の戦いではなく、流派の存亡をかけた戦いだったと思う。流派梁山泊、創立以来の仇敵、蚩尤一族との戦いはそれほどに重い意味のある戦いといえた。
「何がって、アンタの能力が無駄になってしまうくらいの大事が起きたんだ。壊されても、元に戻る。心臓を貫かれても生き返る。”鬼”ってのは只負けただけじゃなく、アンタらを不利にするような状況を作り出して逃げていった。アレがなきゃ、勝っていたのはアンタだっただろうよ。」
俺はあの戦いの中で確実に死んだ。一度は死んだはずだ。でも生き返った。それは”活”の極意によるものだと、相手の”鬼”自身が言っていたことだ。奴ら、蚩尤一族が持つ”絶”の極意を持ってしても倒せなかったと。
「そんな些細なことで! はぐれ魔族ごときが余計な手出しをしたからだと言いたいのね、あなたは!」
「そうやって見下しているから、アンタは失敗するんだ。普通に見ても、アイツらは強いぞ。戦闘に特化した魔族だからな。アンタらは自身の魔力を誇るばっかりで、対して腕を磨こうともしてない。それが敗因だ。」
「まだ、負けてないわよ! 義手が再生したところで、私の勝ちは揺るぎない! ここからプラン”C”に移行するまでよ!」
ハゲに作戦の失敗を通告される魔王。でも魔王はお構いなしに次のプランに移行すると宣言した。まだ前のプランの影響が残っているにも関わらずだ。まだ毒の影響は残っているし、きずもそのままだ。義手も芯の部分が再生したに過ぎない。剣が使えないことはないが全力を出し切るには程遠い。
「あなたの戦闘の記録はしっかりと取ってある。たった一戦逃したとはいえ、プラン”C”には影響はないのよ。あなたも想定外の事態を見せてあげるわ!」
そう言って魔王は剣を構えて、何らかの技の体勢を取った。これはどこかで見たことがある! 見たことがあるってレベルではない。俺自身も使うあの技に酷似している。まさかとは思うがそんなはずは……。
「あなた自身が使う剣技は研究し尽くした。仲間や関係者の動きを参考に、それをコピーする事を考えたのよ。あの厄介且つ理不尽な技をコチラも使いこなしてみようと画策したのよ!」
魔王は構えと共に技を繰り出してきた! 俺は反射的に技を相殺する方向で動いた。そう、相殺する必要がある! ”八刃”を相殺するためだ! あれを無効化するには逆位相で同じ技をぶつける必要があるのだ!
(バシュウウウウン!!!!)
技同士が激しくぶつかり合い、炸裂音が周囲に鳴り響く! お互いの技は打ち消し合い、何事もなかったかのように事態は収束した。魔王が”八刃”を繰り出した! ありえない悪夢のような出来事は突然起こった。
「ホホホ! どうかしら? あなたが想像したくもない現実だったでしょう? これであなたの技はもう通用しない! 究極奥義”八刃”、破れたり!!」
義手もある程度修復が完了し、毒や傷の影響が薄まりつつある。だが、そんな希望の兆しを打ち消す事態が発生してしまった。俺達の”八刃”が完全にコピーされてしまった! 奴ら魔族に使わせたくない、あの技が使われる事になってしまったのだ……。




