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そして神は間違える。  作者: 相沢 阿吽
6/12

誘拐

 ───二人でエアバイクに乗って本庁に戻っている途中にほんの少しだけ考えにふける。



 初出勤の日が大事になってしまった。報告はドリーさんがするんだろうけど少し緊張するな……薬物の皇帝アント、これが星都に拡散されると星民は思い通りに操られてしまうらしい。これを悪用しないようにするために情報統制がされていたんだろうな……。



 駐機場に到着してバイクを降りる。

「捜査本部が何階か分かりますか?」

「今日入庁式した部屋をそのまま使うらしい」

「分かりました」

 出た時のように本庁の裏から入りエレベーターで10階を目指す。



 今朝入庁式が行われていた10階に到着すると大勢の人がごった返していた。

「どけー、やることない奴は端っこで座っとけ」

「そっちの資料をこっちに持ってきてくれ」

「全員分の飲み物は用意されているか?」

 といろいろな言葉が飛び交っている。



「どこ座ります?」

「どうせ俺たちは報告するだけで捜査は別の部署の隊員がやるから部外者は一番後ろの席で良いんじゃねえか」

「そうですね、そうしましょう」

 張り切って前に行く必要なんてないよな……たぶん。

 そうして無事部屋の一番後ろの席を陣取った。



 捜査は麻薬取締官がやるだろうけど現場を抑えに行くのも麻薬取締官なんだろうか?

「捜査と検挙麻薬取締官がやるんですかね」

「そうなんじゃないか? 詳しくは俺も知らん」

「そうなんですね。危なくないんですかね」

「そりゃ危ないだろうけどアーマードウェア着るから大丈夫だろ」

「アーマードウェアって麻薬取締官でも配備されるんですね。まだ人生で一度も見たことないです」

「そうなのか……見らないことに越したことは無いぞ?」

「そうですよね。危ない事件が起きてる証拠ですからね、平和が一番です」



 ドリーさんと駄弁っていると数人の部下を引き連れたお偉いさんらしき人が部屋に入ってきた。



「「「お疲れ様です」」」

 部屋の全隊員が立ち上がり挨拶をする。



「いいかお前たち! 15年前に捕まえきれなかった相手だ、必ず尻尾掴んで月送りにするぞ」



「「「オォォォ!」」」



 部屋全体が大きな掛け声一つで一気に引き締まる。

 お偉いさんはそのまま一番前の全体を指揮する机に座る。

 それに続いて部屋の全隊員が椅子に座り次の声を待つ。



 ……今朝ぶりの静寂である。これが訓練された部隊の統率力なのかと感嘆する。



「それじゃあ売人とアントを見つけた第一発見者ァ報告ゥ!」

 先ほど入ってきた指揮官が威圧的に声を発する。



「ハイ」

 ドリーさんが背筋を伸ばして立ち上がり返事をする。

 ドリーさんの強張った顔から緊張が受け取れる。

 そりゃそうだ……自分の手柄を上官に報告するんだ顔を覚えてもらう絶好の機会でもあるし失敗すれば失望すらありえる。

 失敗するなよドリーさん。



「本日早朝入庁式が終わった後、新人隊員とともに交番に向かっていたところ路地裏で揉めている男女を新人のイース隊員が発見し現場に急行致しました。しかし、我々が向かっている時に気付かれてしまい男はそのまま逃走、女性はイース隊員が保護し、私は男を追跡し反対側の大通りで確保致しました。男の所持品検査を行い衣服の中身を確認したら薬物を所持していた為、イース隊員と合流し薬物検査を実施したところアントであることが発覚いたしました。その場にいた女性は記者のようでして薬物を売るところを偶然発見し後ろを付けていたところ見つかり口論となったようで今回の件とは関係なさそうでしたので家に帰しました」



 おお、何とか長文を簡潔にそして噛まずに説明できたようだ。



「つまり取引現場を発見したってことだよな?」

「そのようです」

「じゃあすでに星都に出回っている可能性がある。直ぐに調査しろ!」

「「「はい」」」



 一部の捜査班が退出して調査に向かった。



「ドリーさんこれからどうすれば良いんですか?」

「もう俺たちに出番はないぞ、帰ろう」



 席を立ち会場を後にした。

 その時、

「ちょっと待て!」

 捜査本部の司令官が声を掛けてきた。



「今回二人がアントを見つけてくれたんだよな」

「「はい」」

 俺たち二人は振り返って返事をして驚いた───。



「星民を代表して心から感謝申し上げる。本当にありがとう。良くやってくれた」



 司令官は目を少し充血させながら潤んだ瞳で感謝を伝えてきた。

 お辞儀までして……。



 司令官はこれ以上涙を見せないように捜査本部に戻って行った。



「昔妹さんがアントの犠牲になったらしいですよ……」

 そう伝えてきたのは先ほど司令官と一緒に入ってきた部下の一人の男性だった。



「そうだったんですね……」

「アントのせいで妹さんがおかしくなっちゃって、家族もバラバラになってしまったようなんです」

「それで、、、」



 上官であるならば本来は涙など見せてはいけないだろう。第三者が見たら上官失格の烙印を押されるだろうがそれでも司令官は感謝を伝えに来てくれたのだろうと思うと目頭が熱くなる。



「だから必ずアントの出処を見つけて司令官だけじゃなく今も苦しんでいる遺族の方の心が少しでも軽くなるように頑張りましょう」

「……ですね」

「……だな」



「それではこれで……」

 そう言うと彼は戻って行った。



 そっか、当たり前だけどヴィジル6の隊員内にも事件の被害者がいるのか……。

 アントに限らず自分や身内が傷ついているけど毛ほどもそんな感じを見せていない。

 みんな強いんだな───。

 傷ついて絶望してもそれでも立ち上がり自分だけでなく星都全体の安全を守っているんだから。



「じゃあ俺たちは俺たちの仕事に戻るか」

「はい、戻りましょう」



 ───本庁から出発し今度こそ交番に到着した。



 交番の広さは100㎡ほどの広さがあり2階建て、正面にはヴィジル6の紋章が光り輝いている。

 建物の周囲には植物が育てられており華やかさも持ち合させている。



「1階が訪問してきた星民を対応する場所で奥の部屋は仕事をする事務所となったいる。2階は仮眠室や休憩室、まあリラクゼーション室だな」

 ドリーさんが交番内部を紹介してくれた。



「キレーに使われてますね」

「そりゃそうさ、汚い交番は誰にも信用されないからな。綺麗に保つのも仕事の範疇さ」



「他の交番勤務の人はいないんですか?」

「いや、いるぞ。さっき通報があったから交番を空けますって連絡が来たけど俺たちが向かっているから問題はないって返事しといた」

「そうですか挨拶しようとしたんですが残念です」

「大丈夫、いつでも挨拶できるさ」

「そうですよね」



 結局その日はそのまま誰も帰って来ず、ドリーさんに新人は早く帰れと言われ定時に帰されることとなった。

 初日に挨拶したかったんだけどな。



 本庁で着替えて帰宅中───。


 初勤務にしてはハードだった……。

 明日もスーツを着ていった方が良いかな?

 毎日着ていく服を考えるのは面倒……。

 楽だからこれからもスーツで良いかな。



 なんて疲れすぎたのか自問自答して帰宅までの時間を潰していた。

 肌寒く街灯で照らされた夜道は考え込むのに十分な静けさがある。

 まさか初日に特殊部隊に任命されることになるとは思わなかったし、任命後にすぐ手がかりが手に入ったのも運が良かった。



 明日からも交番勤務をしながら薬物の手がかりを見つけないといけないのか……?

 ちょっと待てよ。

 薬物の売人を見つけたから後は麻薬取締官が捜査と検挙をするのであれば俺がやることはもうないはず……任務達成なのではないだろうか?

 むむむ。

 明日、最高司令官に任務達成か聞いてみる必要があるな。



 ───突如。



 視界の右上にロロアからの発信を受け取った。

 ロロアの事だ、どうせ今日の出来事について聞くための連絡だろう。

 まだ大した情報がないことを伝えておこう。

〈悪いなロロア、こっちはまだ捜査の途中でさ……おま〉

〈ゼア助けて! 今朝捕まえた売人の仲間に誘拐されたの〉

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