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そして神は間違える。  作者: 相沢 阿吽
5/12

麻薬取締官

 中央区の大通りに接した路地裏でとんでもない薬物の売人を見つけてしまった。

「ドリーさん、麻薬取締官を呼びますね」

「おう頼む!こっちは上官に連絡を入れておく」

「了解しました」



 頭の中で麻薬取締官宛てに念じる。

〈こちら交番勤務のゼア・イースです。薬物所持者を見つけました〉

〈了解直ちに向かう〉

 麻薬取締官らしき人から連絡が来た。

〈薬物の種類はアントでした〉

〈何⁉ それは本当か?〉

〈はい、交番勤務のドリーさんも一緒にいるので間違いないかと〉

〈ドリー隊員もいるのか……アントの事を知る隊員二人と売人だけだな?〉



 しまったやっぱりロロアは帰すべきだった。

 ロロアもここに居るが言わない方が良いだろう。

〈はいそうです〉

〈了解、星民にアントの情報が流出しないように現場の封鎖を頼む〉

〈はい、直ちに行います〉

 麻薬取締官との連絡が切れた。



「直ぐに麻薬取締官来ます。それと情報流出を防ぐため現場を封鎖します」

「了解、こちらも連絡しといた。今から緊急で捜査本部が立ち上がるらしい」

 本格的に操作が始まるらしい。



「本当ですか? 大事になってきましたね」

「だな、そう言う訳で嬢ちゃんは帰んな!」

「え?」

「ここからは捕まえる俺たちの仕事だ、これ以上はダメ!」

「うん。じゃあ解決したらどうなったか教えてね?」

「……はいはい」

「絶対だよ!」

 目を輝かせて言ってきた。どうせ記事のネタのためだろう。

「分かった分かった」

「……それじゃあね」

 ロロアはゆっくとした足取りで暗く湿った路地裏から明るく風通しの良い大通りへと消えていった。



「そう言えばあの嬢ちゃんはお前の知り合いか?」

「ええ、幼馴染なんです」

「ならちゃんと守ってやれよ」

「? どういうことですか」

 何が言いたいのか良くわからない。

「あの嬢ちゃんは好奇心でどこまでも首を突っ込むタイプだぜありゃ」



 図星だ。

 ロロアは面白いと思ったことは周りを見ずに、考えずに手を出すところがある。

 記者にとって長所なのだろうがどうしても周りの人間が彼女が超えてはいけない境界を首根っこを掴んでも止めたいといけないだろう。



「そうですね。あいつは昔から好奇心に逆らえないたちでして……」

「そうか、ああいうタイプは痛い目に会わないと学習しないだろうしな」

「・・・」

「まあそう言うことだ、お前なりに手を掛けてやれよ。作業に戻ろうぜ」

「……はい」



 連絡した麻薬取締官に言われた通り、道具を要請して現場を封鎖した。



 どうやら麻薬取締官2人もエアバイクに乗ってきたようだった。

 エアバイクを降り、こちらに近づいてきた。

「やあドリー、久しぶり」

「なんだお前たちか」



 一人は40代ぐらいの白のTシャツに黒の革ジャンを着ている小太りのおじさんと20代後半のナイスバディのミニスカートの隊服を随分と着崩れさせた金髪美女が現れた。


 治安維持部隊の隊員が治安を悪くするようなセクシーな服装をしているのはどういうことなのだろうか? 

 俺の人生で類を見ない不揃いの服を着たコンビだが若干大麻臭いので正真正銘の麻薬取締官なのだろう。

 金髪美女の方は香水を付けて大麻臭さを消そうと工夫を感じるが如何せん匂いが強い大麻と混ざり合って酷い匂いになっている。

 このままではまずいので口呼吸に切り替える。



「大手柄だそうだな」

「おう、ってかキャシー臭っ! 何この匂い⁉ 相変わらずお前ら臭いけど今日はいつも以上に臭いな」

「仕方ないでしょ! 職業病よこんなの それに相変わらずドブ臭いドリーに言われたくないわ」

「なんだと!」

 ドリーとキャシーが言い争いをしている。



「気にするなよ、いつもの事だ。ドリーとキャシーは顔を合わせると口喧嘩するんだよ」

 麻薬取締官の彼は呆れたように俺に説明してくれた。

 彼の名前をバークスで調べる。経歴を見るとどうやら麻薬取締官一筋のベテランのようだ。



「マーシーさんはドリーさんと長い付き合いなんですか?」

「そうだよ、あいつとは新人の時からの付き合いになるな。かれこれ10年は経つかな」

「へー、そうなんですね。ドリーさんは昔も顔が怖そうですね」

「そんなことねえのよ 入って来たときはまだドリーは人間の体をしてたんだよ」

 ドリーさんのとんでもない秘密を知ってしまった。


「あっ……そうだったんですね 何でワニなんですかね」

「……さぁな、詳しくは聞いてないんだよ 人間生まれた体を変えるのは生半可な覚悟じゃ出来ないからさ……ドリーなりの理由があるんだろうな」

 近年、亜人になる人が増えては来ているようだが未だに亜人への偏見があるし、亜人を良く思わない人は多い。過去のドリーさんに何があったんだろうか───。

「そうですよね……ところでさっきから気になってるんですがキャシーさんの服装は趣味なんですか?」

「あ~あれはだな、、、」



 服装の話を始めた途端に口喧嘩を切り上げてキャシーさんがこちらに顔を向ける。

「そんな訳ないじゃん、夕方からあるコスプレイベントで薬物が使われているらしいからそこで潜入してとっ捕まえるの。まさか本物がヴィジル6のコスプレするとは思わないでしょ?」

「なるほど、だからだったんですね。普段からセクシーな服装をしてるのかと思いましたよ」



「「・・・」」

 僕がにこやかに返事をするとドリーとマーシーはお互い苦笑いで見つめ合った。


「何? なんか言いたそうねお二人さん」



「おいゼアこいつはいつもこんな感じの格好をしてるぜ。それにセクシーなんかじゃねえこいつのは卑猥って言うんだ」

「同感だ!」

 ドリーとマーシーがキャシーに攻撃を仕掛けた。



「っ! イース君が合っているわ。これはセクシーの部類よ……まあ、おじさんには若い子の感性なんて分からないでしょうけど」



 今度はキャシーがおじさん二人に攻撃を仕掛けた。

 どちらも精神的ダメージを受けたようだ。顔が引きつっている。

 今にもキャシーが二人に飛び掛かろうと戦闘態勢に入りだした。

 お互いが攻撃したのだからノーサイドだろう、これ以上拗れると乱戦になりそうだ。

 どうどう。

 落ち着かせるために話題を変えよう。



「まあまあ落ち着いてください。話は変わりますがアントの何が恐れられているんですか?」

「……そうか、今の世代は知らないよな」

 マーシーさんが落ち着いた雰囲気で語り始めた。

「?」

「お前の物心つく前の話だよ。とある飲料製造企業がサンプルを配布し新製品の宣伝を行ったんだ。しかし、その宣伝自体は嘘でホントはアント入りの果汁飲料をタダで配りまくったんだ。そしたら案の定アントに依存する星民が急増して社会問題になったんだ」

「そんなことが……、その企業はどうなったんですか?」

「当たり前だけど潰れた、飲料を配るためのペーパーカンパニーだけどな! それに企業関係者も月送りさ」

 マーシーさんの下に向いた顔に静かに力が入る。

 珍しくドリーさんとキャシーさんが静かにしている。



「で、でももう解決したんですよね?」

 少しでも場を和ませるために明るく質問をしてみる。



「地獄はここからさ、言っただろペーパーカンパニーだったんだよ。人すらな!」

「それはどういうことですか?」

「企業関係者すべてがアントに依存している人間だったんだ」

「薬物依存者が薬物依存者を増やすために活動してたって言いたいんですか?」

「そうだよ!」

「そんなはずない! 薬物依存者は無気力や感情的になって私生活に支障が出るはずですよね。まともに仕事が出来るなんて……思えません」

 感情的になって声を荒げてしまった。そんなの薬物の常識を根底から覆すじゃないか。



「そこがアントの恐ろしい所だよ……アントにあるのは圧倒的な依存性だよ。有害性はほとんどないんだよ」

「それだとただ気持ち良くなるだけの薬だと思うんですけど……」



「アントを使った人間は快楽に溺れ依存するようになる、どんなことをしてもでも手に入れようとするんだ。それにアントを使った人間に有害性は殆どないから薬物に依存しているだけの健康な体なんだ。一度アントに体を蝕まれた人間は体は健康なまま死ぬまで薬物に依存し続けるゾンビになる……薬物を使っても体が壊れず長期の間死ぬまで買い続けてくれる優良リピーターの出来上がりさ、アントの名前はその名の通り女王蟻のためにせっせと働く働きアリのようだからさ」



「……、一見まともそうに見えてもアントに侵されているわけですね」

「ああ、販売元にとっては暴れず何でも言うことを聞く最高の客だろうな。飲料製造メーカーの人間もきっとアントを報酬にアントを配り続けたんだろう……」



「そんな……薬物依存者に薬物で釣るなんて……」

「それにな、アントを配った飲料製造企業が摘発され潰れてからはアントを摂取出来なくなった依存者は悲痛の叫びを上げ、人生に絶望し自殺していったよ」



「そんなのどうすれば……あっ、アンドロイドになればいいんじゃないですか? 体から解放されれば元の生活に戻れるかも」

「そんなのものはとうの昔に試したよ。記憶を消そうがアンドロイドになろうが記憶や体のどこかにこびり付いてるんだろうな……同じように死んでいったよ」



「・・・」

「つまりだ、ペーパーカンパニーをトカゲの尻尾切りのようにしてアントの効果を実験した元締めがいるはずなんだが未だに見つかってないんだよ……」



「つまりこいつが、」

「ああ、こいつが十数年ぶりの手がかりだ。こいつから元締めに辿り着けるはずなんだ……」



 ドリーが横たわっている売人の髪を掴んで頭を持ち上げる。

「お前にどんなことをしても話を聞きださねぇとなぁ!」

「お、俺は……何も知らない、ホントだ。薬の売人如きが元締めなんか知る訳だいだろ」

「嘘つけ! この野郎があぁ!」

 ドガッ!

 ドリーが掴んだ売人の髪の毛を振って売人の頭を地面に叩きつける。

 男は頭を強く打ち気を失った。



「よせドリー死ぬぞ、どうせこんな奴が知る訳ない」

「じゃあどうすんだよマーシー」

「そいつはウチが預からせて貰おう。知っている情報は必ず吐き出させるっ!」

「チッ! 必ずだぞ」

「ああもちろん、どんな手を使ってでもな」



 必ず捕まえてやる。

 現場には張り詰めた空気が流れていたがキャシーがそんな空気を気にもせずぶち壊した。正直ありがたい。



「ああ、そうだ そっちに捜査本部の話は来ているかしら?」

「おう、お前らが来る前にゼアと話したところだ」

「そうっ ならここは私たちに任せてさっさと行った方が良いわよ。第一発見者だったあなた達が報告する義務があるでしょうしね」

「そうだなここは任せて報告に行ってこい」



「……分かった。じゃあゼア報告に戻るか」

「はい!」



 ───止めていたエアバイクに再び乗り、現場を二人に任せて捜査本部のある本庁に戻った。

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