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魔術師事案仲介人の事件簿

作者: 大鳥進

異世界魔術師ものです。

「魔術師はヒーローなんかじゃありませんよ」

私はそう拗らせた人々に告げた。



「ふー---っ」

私はようやく溜まっていた報告書を片付け、念願のティータイムを楽しむことができた。

ああ、この時間は絶対誰にも邪魔されたくない……

でも、そんな時に歓迎しない事案が発生する可能性は決して低くないことは、経験則で分かっている。

そして、今回もそれは起こった。


「ん?このアラームは……。ああ、懐かしい。いつかの契約書でしたか。とうとうこのお世話になる時がきたのですね」

このアラームは、以前交わした契約の始まりを知らす鐘の音。

約束した以上は行くしかありません。


「億劫だろうと約束した以上は行かなければ。出なければ事務所の名折れ。それに、何か収穫はあるかもしれませんしね」

行動起こすと決めたら即行動。それに急がなければ手遅れになりかねませんしねえ。

格好は…まあこれでいいでしょう。では、残った茶を一気に飲み干し、閉店しましたの立て看板を設置っと。さて、空間転移といきますよお。


「では、しゅっぱ~つ」

術式を展開しつつ、光にその身を巻き込みながら、空間跳躍をおこなった。



目の前には契約書。なるほど、契約書を壁に貼っていたんですね。周囲は絵画やら机やら椅子やらで、誰かの執務室のようです。

でも、これだけじゃあここがどこなのか、どんな事案が発生したのかがわかりません。

まったくもって困ったものです。ふむ。

とりあえず、部屋を出て、廊下も渡り、外に出てみます。

そうしてみると……


「わお、見事に吹き飛んでいますね~。ここまでくると何だか清々しい」

そう、建物から出ると、目の前には僅かばかりの家があったと思われる痕跡と、どでかいクレーター。そして、何やら険悪な雰囲気を醸し出してる人々でした。


私は、その集団に近づき、声を掛ける。

「こんにちわ、皆さんは無事でよかったですね。そして、間違いなくお困りですね」

私は空気が読める子なんです。


フレンドリーに声を掛けたのですが、私を皆さん胡乱気に見つめるだけで、雰囲気はよろしくない。

困ったな~と思ってた私ですが、集団の代表らしき人が声を掛けてきました。


「お前さん、誰だ?まったく見かけない顔だし、格好も街の者がするものじゃない。ひょっとして、このろくでなし魔術師の仲間か?」

そう指し示した先には私のご同業と一目でわかる格好の、深紅の髪に琥珀色の瞳をしたまだ若い女性の魔術師がいました。魔術師は見た目通りの年齢とはいきませんが、雰囲気で何となく年季が入ってるかわかります。


第一印象を大事にその魔術師に声を掛けておきます。

「やあ、どうもこんにちわ。同業の魔術師です。ただ、皆さんの抱えている事件を公正に処理するため、現時点では味方とは残念ながら断言できませんが。ちなみに私はこういうものです」

そういいつつ代表者(町長?)と若い魔術師に名刺を渡す。


「魔術師事案仲介人…?聞いたことがないが……?」

「んん……。確か先生から調停人気取りの奴がいるってきいたことがあったけどそれってあなたなの?」

二者二様の返事ですね。


「はい、調停人という表現はある意味正しいです。私は魔術師が絡む問題に介入することも生業にしていますから。力そのものの魔術師はトラブルになることが多く、その影響は強いわりに、社会の法で裁くのは困難です。なにせ、犯罪があった場合でもその立証は難しい。というか、ほぼ無理です。なら泣き寝入りか?いやいや、それは不条理にもほどがある。その理不尽を正すものは必要と有志が立ち上がり、運営をしております。今回こちらに来たのはかねてからの契約によるもの。ですので、代金はすでに頂いておりますので結構ですよ。よかったですね、先人に感謝すべきです」

私が説明をしていると、代表者は戸惑ったような声を出す。


「契約ってなんだ?いつそんなもんがある?っていうかどこに?」

その戸惑いようから本当に知らないようだと判断しました。まったく、ちゃんと引継ぎはしてください。はぁ。


「魔術が絡む厄介事が発生したらその解決に乗り出してくれ。それがこの街の先人達が私どもと交わした契約です。書面はこちらの建物の執務室と思しき部屋に額縁で飾られていました」

「え、もしかしてあのよく分からん文字で書かれていた奴かあ!そういや何か言付けが代々町長の地位に就く時に伝わっていたなあ。あれってどこいったんだろ?」


……町長やはりそうでしたはどうもずぼらな性格のようです。これじゃ時間がかかりそうです。ちょっと強引に取り掛かりましょう。

「なんとなーく私の事が分かったようですね。ではこの事態について説明をお願いします。皆さんも問題は解決したい。でも危ない目に会いたくない。でもでも、このままじゃ腹の虫が収まらない。ということだと思います。幸い私は魔術師です。それも自分で言うのも何ですが結構強いし、荒事の経験も豊富です。にらみ合ってるよりはよっぽど有意義な時間を過ごせると思います。どうせ、行き詰ってるんでしょうし」


私が核心に踏み込むと、私の勢いに飲まれたのか皆さん話を始めてくれました。やったね!


「この街がこうなってしまったのは、悪魔の如き力でこの女が全て吹き飛ばしてしまったせいだ。わしらはこの所この街で起こっていた怪異の解決をこいつに依頼した!そしたらしばらくして、早く逃げろ、でなければ命の保証はできないと言いだした。わしらはそう言われて戸惑いながらもなんとか役場まで避難した。そしたら爆発音と閃光、熱や衝撃波によって巻き起こった砂埃がわしらを襲い、それが晴れたらこの有様じゃ。家や家財を失い、逃げ遅れた人もいた。多くの者が被害に会い、全てを失った‼」

矢継ぎ早にそうまくし立てて町長は説明し始めたが、一息をついた瞬間に今度は魔術師が反論を始めた。


「確かに依頼を受けた。そして、探索の末に怪異の源を突き止めた。その怪異とは、過去にこの街が都合の悪いものとして追いやり、死に至らしまた人間の亡霊だ。その亡霊は長い年月の果てに力を付け、恐るべき力を身に着けていた。今はまだ封印の効果で動けないが活動を始めたら、この街の住人を食らいつかさんと虎視眈々と狙っていた。ここに封印の欠片がある。これを解析すれば私の言ってることの裏付けもできよう。その封印は今にも解けそうで、かつ、解けたら私は歯が立たず、勝てそうな人を呼ぼうにもそんな時間はなかった。私にできる被害を最小限に食い止められる手段はただ一つ、動けず、力も思うように振るえない内に最大火力で叩き潰すこと。半端な火力じゃ封印を破壊するだけという最悪の結果を招きかねないしな。避難は勧告したし、時間も出来る限り与えた。そして時間ぎりぎりで作戦を決行して亡霊を倒し、この街を亡霊の脅威から救ったんだぞ。それなのにこいつらは私は責めるだけ。ふざけるな‼」


鬼気迫る形相で叫ぶように喋る。話しているうちにうっ憤が込み上げてきたのだろう。時には吐き出すことも必要ですね。

そんな彼女に対し、住人は反論する。


「はっ、亡霊だあ。鵜呑みに出来るか。それに、怪異の解決なら依頼したが、そのために街を吹き飛ばせなどと約束しとらん。どうしてくれるんだ。どうやって暮らしていけばいい?大切な人を失った人にもそう言えるのか⁉」

そう詰め寄る住人に対し、後ろめたそうにしながらも、彼女は反論する。


「私もできることならこんな真似はしたくなかった。でも、これ以外の方法では亡霊を倒すことはできず、自由を奴が得たらこの街はたちまち死の街になっていただろう。無くなってしまった人々は気の毒に思う。財産を失った人も。でも、あの方法以外では……」

「なにおう……」

なるほど。私の読み取ったこの土地の記憶と双方の話を聞いた結果、だいたいわかってきました。なら、ジャッジしちゃいましょう。


「はー--い、ストップ。これ以上は感情論を言い合うだけでしょう。それは建設的ではありません。また、皆さんお疲れでしょうしね。ここらへんでジャッジさせていただきます」

私がそう言うと、双方ぎょっとした表情をした。


「「え?もう?」」

「はい、もうです。言ったでしょう、私も魔術師で結構優秀だと。土地の記録を話を聞きながら拝見しました。ですので、大体の真実は見えます。それ故の結論を言います」

私の勢いに飲まれたのかシン…となった。よしよし、いい調子です。


「結論は魔術師に分がアリです。これが最善手だったでしょう。もし、躊躇して半端なことをやっていればこの街は死の街になっていました。それはあまりにも救いがない。あなた、魔術師として日は浅い方でしょ?うん、やっぱり。まだ若いわりにいい仕事しましたね」

私がそう言うと女魔術師はほっとした表情を浮かべた後、照れたのか顔を少し赤くしていた。可愛いです。

その一方で、収まらない態度なのが住民側だ。まあ予想していたことです。


「おい、同業だからって庇ってるのか、ふざけるなよ。そんな判決受け入れるか。出る所に出てやってもいいんだぞ⁉」

偉い剣幕でそう言ってくる住人とその裏で頷いている人々に私はこう告げる。


「はい、それはご自由に。でも出る所ってどこですかね?国は魔術師のやる事には深入りしませんよ。最初に行ったように魔術師の行動を裁くには法では不十分です。そして力で制圧しようにもそれは難しい。だって魔術師はとっても強いしタフですから。誰よりもエゴイストで我が強いのが魔術師です。そういった人でなければ魔術師なんてやってられません。伊達に条理に反逆することもいとわず、社会にも背を向けても構わないと思ってる人種じゃないんですよ。あっ、勘違いしないで下さい。いくら我が強くても何でもかんでも暴れん坊ではないんです。基本は平和主義です。ただ、大事な事ではとても強くなるんですよ」

私がそう言うと、徐々に住民たちは気圧されたようになっていく。更に私は話を続ける。


「魔術師は、ヒーローではありません。そうはならない、なれない人達なんですよ。私含めて例外なくね。皆さんはとても辛いでしょう。同情はします。でも決して寄り添わない。私どもは救済を求める人達のサンドバッグではないのです」

私はそう告げると、女魔術師を促し、背を向けながらなお喋る。


「こうしてほしくなければ、魔術的契約書を作っておくべきでした。情報そのものに力がある魔術的契約書は締結したら破れませんから。でも今回はこれが最適解だと思うからお勧めはできなかったなあ。ああ、あと、憤りを誰かにぶつけたければ今は無き亡霊か、ご先祖様にすることです。彼らが元凶なんですから。恨みは正当なぶつけるべき人にぶつけること。それが正しい恨み方です」

私は言いたい事を言ったら女魔術師を伴い転移を行いこの場を去った。



さて、ここは事務所です。女魔術師に今後の身の振り方をアドバイスした後、この仕事にスカウトしてみました。万年人手不足ですからね。

期待していた返事はもらえなかったですけど考えてみるそうです。脈あり…ですかねえ。

最後、去り際に女魔術師は私にこう告げました。


「あなた、性別はどっち?」

「あれ?わかりませんか?」

分かりにくいのかなあ?

読んでくださりありがとうございました。

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