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「…視線がうるさいのですけども」
相手の視線が熱くあまりにも鬱陶しかった為に嫌々薄目を開けると嬉しそうな表情とかち合う。
「目が合ったね」
「…何ですの貴方は」
「僕はシャルル・レノン。
君の家のフィーロラ家とも親交のあるシャルル家の次男だよ」
ほんとに忘れちゃったの?
小首を傾げながら言うその表情は、とてもにこやかで真意が窺えない。
「君は6年もの間眠っていたんだよ。呪いのせいで朽ちることも老いることもなく、16歳の姿のまま…まるで時が止まったようにね」
さも当たり前のようにベッドの端へ腰掛け熱っぽい視線を送り続ける。
「王子様の口付けで、呪いは解けて…お姫様は眠りから覚めるんだよ」
そう言うと眠りながらの私に近付いてくる。
(冗談じゃないわ)
近付いてくる顔を避けながら、私は嫌々と上半身だけ起き上がると大きく伸びをする。
「どこの誰だかどこの王子様だか全く存じ上げませんし興味もありませんけども、
私は一度も起こしてくれとは頼んでいませんし、今現在…いえ、正直に言いますと迷惑ですわ。」
ハッキリと言うと目の前の吊り長の瞳が丸くなる。
これできっと、理想のお姫様とは違うと落胆して帰ってくれる。
私だって別に、6年もの間ただ眠っていた訳では無い。
どこぞの国の様々な王子様達がわたしを目覚めさせようと訪れてきたのだ。
最初は嬉しかったものの、そこに愛などはなく、口付けだけで起きるお姫様という好奇心と、王族であるわたしの家への下心。
起こされる度に黒い妖精の元へ訪れ、もう一度眠らせてくれと頼みに足を運び眠らせてもらっていたのに。
そこからは王子様という者への不信感が募り、起こされる度に辛辣に冷たく追い返していたのだが……
何故か無駄にキラキラし始めているこの王子様は論外だったらしい。
「君が僕を迷惑だと思っていたとしても、僕は君が愛おしくて仕方ないんだ。目覚めてくれてありがとう」
キラキラと寝起きの私には眩しい笑顔で言うその姿は、私が初めて王子様と認める王子様らしい王子様だった。