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コールネーム   作者: みすみいく
9/19

衝突 3

 存在意義を無くして、途方にくれていたクリストファーだったが、存在そのものに価値があるのだと諭された過去を振り返らせられた。

 同じ結果を招かないためには?!

 どうすれば良い?!

 執務室へ戻っても、一向に仕事に身が入らない。

 年半分の女の子に、鬱憤をぶつけて、泣かせて、その上謝罪させた。

 振り返る度居たたまれなくて、落ち込むこと頻りだったからだ。


 とにかくひと息つかなければと、アデールにお茶を貰おうと、インターホンで秘書室を呼び出した。

 だが、応えはリュポンの声だった。

 リントを継ぐにつけて、俺専属の執事が必要で、父の旧知だった彼に、一月ほど前から付いて貰っている。

 ソルボンヌを出て、4カ国語を操り、フランス貴族の傍流でも有るという、総ての条件を満たした上で、父の背景をわきまえているという、稀有な逸材だった。


 「アデール様は席を外しておいでのようです。お茶をお持ちしようと調えている所でございますが?!」

 

 俺専属のと言っても、一家の執事とは、何れリント伯爵家の内政を統括する役職で有るのは間違いが無い。

 曾祖父が当代で無くなった今も、俺が内室を得ずにいる実状では、未だ、秘書に似た存在で有るのは否めないが。

 であるとは言え、伯爵家の執事の肩書きを有ている彼が、当主の俺に伴われることも無く、内務省に出向いてくると言うのが怪訝だった。


 「リントの家に何か有ったのか?!」

 「マリーエ・ローランサン様がお館様のご都合をお訪ねでございまして」

 「…そうか。有難う」


 父か、アレンの叔父貴か…どちらかがリュポンに連絡を入れたのに違いなかった。

何方も俺の意志を尊重して、頭ごなしに言い募ることはしない。

 彼等のように確固たる意志と、哲学を持つ者には良い接し方なのだろうが、俺のようなのには…


 やや有って、茶器と、何やら覆いを掛けた器を載せたワゴンを押して、俺同様成りたての執事が執務室へと現れた。

 応接に移った俺の前に、注がれて湯気を上げているティーカップと、覆いを乗せた銀器を置いた。

 開けると、中には暖められたスコーンとクローテッドクリーム、それに、とろりと紅い、イチゴのコンフィチュールが有った。


 「お館様にはイギリスでお気に召したものですとか」


 イチゴの紅の中に仄かに紫が感じられる、夏イチゴのコンフィチュール。

 それは、オルデンブルクの厨房の、料理人達が仕事の合間に食事を摂る木のテーブルで、主人を窮地から救い出した父の執事が、幼い俺に与えてくれたものだった。

 子供心に、周りの友人達とは違う自分の身の上に、我が身を憐れむ材料を探していた当時の俺に。


 「お館様が現在存命でおいでの訳は、あの折の私共の働きの故等では御座いません。坊ちゃまがおいで下さったお陰でございますよ」


 口の中に広がった甘酸っぱい味と供に、ケインの言葉が蘇ってきた。

 

 「有難う、リュポン。助かったよ。お陰で落ちついた」

 「お言葉は、ケイン師に私からの御礼と供にお伝え致します」


 思いがけず負けず嫌いな所が有るのかと思わせられて、此方も少し息が抜けた。


 「お館様…僭越にも私なりになどと申しましたこの身が、先々お役に立ちましょうか?!」

 「俺も。お互い、役に立つようになるのを待って貰うことにしないか?!」


 リュポンの俺を見る目が、絶句の後微笑んだ様に見え、次いで、我に返ったように立て直された執事の意識が言う。


 「は。何事も仰せのままに」

 お読み頂き有難う御座いました!

 物語の中は20年が過ぎています。幼い子供も成年になり、次代の担い手を育てる立場に成っています。

 先代が開けた穴を塞いでるんですね。

 『コール・ネーム』はフェスタに向かっています。お楽しみに!

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