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コールネーム   作者: みすみいく
4/19

落差

 家を継承する事実がじわりと実感として重圧を増してゆく。

 父の抱えて居る重責を少しでも引き受る事で、存在を認めて欲しいと思うクリストファーだったが、躊躇の二の足を踏む。

 勢いで叔父貴をたじろがせて、満足そうに1つ頷くと、意気揚々と立ち去りかけた。つい、やっぱり可愛いと微笑を漏らしたのを、ぎろ…と睨まれた。


 呆然と見送っていた叔父貴も、俺と顔を見合わせて、溜め息を付いた。


 「アウルに睨まれたかと思った…」

 「やっぱり?!」


 一緒に遊んでいた、小さい頃の顔が垣間見えた気がして居たんだけどな…


 「やっぱり駄目かね?!」

 「ルーラと結婚?!嫌ですよ! リントとオルデンブルクと、おまけにカーライツまで?!3つも名前を重ねて抱えさせられるなんて、父様と同じじゃ無いですか?!」

 「それもそうだな…ま、少なくともルーラが16に成ら無ければ話に成らん。だが、あれは美人に成るぞ?!」

 「そこ!それも冗談じゃ有りませんよ!父にそっくりの妻なんてっ!!」

 「成る程。今は、リント一族を掌握に務める時では有るな。隠居が存命の内に」

 「その為に叔父貴に付いて貰っているんですから」

 「悪い」


 少しがっかりしたように溜め息を付いた美丈夫は、アレン・フランシス・ロルァ・フォン・カーライツ伯爵と言い、俺の今の名、リント伯爵と、かつてシェネリンデを2分して支配していた伯爵家の若き首長だ。

 父とのタッグが、半社会主義国で有ったこの国を経済的自立に導き、次第に自由資本主義国家へと移行しつつ有った。


 父の双子の兄、現国王ランドルフ1世の義理の弟でも有るので、俺が叔父貴と呼ぶわけだ。

 

 この叔父貴が何でがっかりするかというと、これは憶測なんだが、俺がルーラと結婚して産まれるだろう孫が楽しみなんだと思う。

 何故なら、母を亡くした後、父の伴侶となった人で、息子の俺の口からは言いにくいが、この上なくベタ惚れしているから…だった。


 ここンところが大問題なんだ。

 同性で、それぞれ一党を率いる首長で、本来なら妻を得て、それぞれの家の繁栄に寄与すべき人達なんだから。

 有り得ないっちゃァ有り得ない。


 父がまだ13歳で有ったというのに、形見の俺を見守るだけのために日々を送っていた頃、在籍していた聖グラヴゼルへ、成長不良で小っちゃかった叔父貴が12歳で編入してきたのと出逢った。


 その時のアレンの何が父の意識を変えたのかは定かでは無いが、封じてしまった生身の人の欲求を思い起こさせる存在だった事に間違いは無い。


 叔父貴を拒絶したままいたなら、父は今頃この世に居なかった。

 自尊心の欠如と、自分にとって無二の者と成った叔父貴の将来を思う故に、関わりを持たないままに潰えてしまうと言うのが父の目論見だったからだ。

 自分がいなくなった後で、母との事で創ってしまったリント伯爵との確執を、叔父貴の負担として残さぬ為に、加えて、俺を叔父貴に託すためにも、政敵で有るリント伯爵を排除すると決めて実行に移した。

 執拗な迄の挑発と、勢力の削ぎ落としを繰り返し、自分の命を囮に失脚に追い込もうとした。

 叔父貴は父の身を案じる余りに、状況を看過できず、身替わりに成るために罠に落ちてしまった。


 彼等の関わりなくしては有り得ない、絶体絶命の危機だったが、関わり故に起死回生の逆転劇を演じる事にも成った。

 まだ、3年前、彼等が21,2の時の話だった。

 叔父貴の言によると、6歳でオルデンブルクの当主とならざるを得なかった父は、通常の最低限の成年に至る10年もの時を、自ら構築した自我で置き換えて終ったのだと言う。


 空白の、間に合わせのただの理論に、命を繋ぐ力など有るはずも無く。父がともすれば生身で有る自分を失念しがちになるのも、空白の10年に起因していると言うのだ。

 まだ6歳の子供が、大人の分別を日常にしようとすれば、子供で有ることを捨てねばならない。

 必要な睡眠も発育段階の必須で有る食欲も、周りへの子供らしい甘えも、総てを無いものとして処理してしまったのだった。

 従って、補われないものは消耗して喪われる。

 置かれた状況に、役割を終えたなら潰えてしまって良いものとして自分を見ていたようだった。

 その、人としての縁を喪っていた父を、この世に繋ぎ止めたのが叔父貴ならば、総てが『やむを得ない』のだった。

 その訳を知らなくても、2人の有り様を見たなら、否やを唱える訳にはいかなくなるのだ。


 だが、ふつーでない家に育った俺も、少なからずふつーに育たなかった。


 出自の為か、元来持って生まれたものか、定かで無いが、父と同じく、生きている実感を失う事があるような気がする。


 我欲と、自己顕示欲に乏しい。


 で、叔父貴にああ言ったものの…

 意欲そのものの様なルーラの事が、少々引っかかる。


 …嘘だろ?!


 「クリス!視察に行くぞ!『ローゼンブルク・リゾート』の責任者として、オープニング・セレモニーに備える事が目下のお前の最優先課題だ。3つの家の今後は後で考えれば良い」


 …父様にも前に似たような事を言われたけど…


 「ええっ?!責任者?!俺が?!いきなりそんな…出来るんですか?!それ?!」


 昨日は父に、今日は叔父貴にたたみ掛けられて、いい加減うんざりしていた。


 「俺の次席に就いて、リント伯爵を名乗るとはそう言う事だ。やり遂げて初めて一族を掌握も出来る」


 …ううっ!!勘弁してくれ!!

 お読み頂き有難うございました!

 複雑な家に生まれて、健気なクリスが可愛いと思いながら書いております。

 今暫くお付き合い下さいませ!


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