フィナーレ 2
大役を果たした2人は同時に自分達の問題をも解決できていたことに思い至ります。それは何の事は無いと言うほど呆気ないものでした。
そう思えて初めて、次を考えることが出来るのでした。
教会での模擬結婚式の後、俺達は森の中に帰った事に成って居たんだそうで、ショーの間一貫して流れていた真夏の夜の夢の結婚行進曲が、全ての場面をを取り纏めて居たのだった。
全てのプログラムが終了して、観客がホテルへと誘導された頃、俺とルーラは、薔薇と森の木々の間で、コマーシャルフィルムと、スティル写真の撮影に励み、申し込まれていたインタビューを受ける頃には、文字通りくたくたに成っていた。
その頃には、着用していたモーニングとルーラのドレスも、ディスプレイにするとかで、脱がされてしまった。
シュロスヴィントのロビーエントランスを飾るのだそうだ。
最終的に全ての予定から解放されて、木陰に設えられたガーデンベンチに2人して座り込んでいるところへ、クラシカルなメイド服に身を包んだアデールが、大きなバスケットを抱えて現れた。
「お疲れになりましたでしょう?!お二人ともとてもステキでしたわ!」
「アデール!君まで駆り出されていたの?!」
「スタッフとしてならかぶりつきで拝見できますもの!それに、公爵閣下でさえ斟酌無しの監督には否やは通じません」
軽口を効きながら、バスケットからローストビーフやスモークサーモンのサンドイッチや、温めたスコーンを取り出して、俺とルーラをもてなしてくれた。
目を輝かせて眺めていたルーラが、取り分けられたサンドイッチとスコーンに、手を伸ばした。
「お腹ぺこぺこ!有難うございます!」
言って、たっぷりとクローテッドクリームとイチゴジャムの乗ったスコーンに齧り付いた。
元気だなぁ…と、まだ食らいつく気に成らない俺が、健啖ぶりを眺めていると、アデールがグレープフルーツジュースをペリエで割ったものを、氷をなみなみと盛ったグラスに注いで渡してくれた。
「リュポンさんから言付かって参りました。それと、ホテルの予約が2年先まで埋まったそうです」
「ホントに?!」
「対応に人手が要るのでわたくしが。この後はご自由になさって下さって結構ですと、これもお言付けでございます。では、わたくしはこれにて、失礼致します」
少し苦みのあるグレープフルーツジュースだったが、ペリエで割って有るので飲みやすい。疲れた躰に染みわたっていくようだった。
「ルーラ。改めてお礼を言わせて下さい。君のおかげで大成功だった」
スコーンを頬張って、サンドイッチの皿を渡してくれながら、微笑む。
受け取ると、ミルクティーで口の中のものを流し込んでひと息ついた。
「召し上がって!私も嬉しいわ。とっても楽しかったし」
「そう…良かった」
ほんのりと桜色に染めた頰がとても可愛らしい。
「…あのさ。俺が君に酷いことを言ってしまったのは、君と父が重なるからで、君が悪いんじゃ無いんだ」
言われてキョトンとした顔を見ていると、自分の目が如何に思い込みに塞がれて居たかを知った。
「え~と、父と君の父上の王陛下は双子で、そっくりで。女の子は父親に似るのが普通なんだそうだから、当たり前のことだったんだ」
「従兄妹で、お互い、リントとカーライツと言う、この国の両輪で有る家の次期当主となる男女なんだから、結婚を期待されるのも無理の無いことなんだ」
「君自身にも、何も問題がある訳じゃ無い。原因は俺が父に引け目を感じている。それだけなんだ」
ティーカップに向けて居た視線を、俺に向けると、溜め息を付いたものの、小さな微笑みを載せた唇で言った。
「貴方1人が悪いわけじゃ無いわ。無理も無いことだもの」
許して…受け入れてくれる?!
「私に問題が無い事も無いの。私、可愛く無いもの」
「そうかな?!」
「そうなの。可愛くないと思っていたから、貴方に対してあんなに意地を張ってしまったんだもの」
「でも、公が言って下さったの。自分で可愛げが無いと思っていても、好きな人が可愛いと思ってくれれば良い様だよ、って」
聞いた事が信じられなくて、目を見張った。そのまま見詰めるとルーラも同じように目を見張った。
そうして、2人で笑った。
「そんなこと言うんだ。ホントに?!」
「ホントよ!私もびっくりしたもの」
愛くるしいというのはこう言う笑顔を言うのだろうなぁ、と、執務室で渡り合った片鱗も無い彼女に溜息が出た。
「公は貴方のことも仰ったわ。クリスは私の出来ないことを軽々と遣って退けるんだよ、って。余りにも当たり前のようにしてしまうので、自分でも気付かないんだよ、って。」
リュポンが言ってくれた事と同じだった。何の事は無い。父様も判っていないんじゃ無いか。
「彼はせねばならないと思ってするのでは無くて、真実、本意そのもので行動するのだって。訳がお分かりに成る?!」
胸が詰まって涙がせり上がってきて、ただ頷くだけしか出来なくなってしまった。
「きっと、心配し無くて、良いと思うわ。貴方は大丈夫よ」
自分を理解するのは、あの父でさえ容易では無いのだった。
「そうなんだ。気負いすぎて居たんだな…やっぱり君は悪くなかっんだ。不快な思いをさせて申し訳無かった」
「オルデンブルク公の仰った意味が、判ったような気がする…じゃあ、私も気負うことは無いんだわ…」
何かに思い至って、呟くように言った。
ふんわりと笑って頬を染めたルーラが、とても可愛いと思う。
何だか少し悔しいような気がするのは気のせいだろうか?!
お読み頂き有難うございました!
今回は書かねばが先に立って、とても長いお話になってしまいました。お付き合い頂いたおかげで、次のお話が登場しました。何れまた、お目に掛けるときまで!




