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コールネーム   作者: みすみいく
18/19

フィナーレ

 フィナーレの舞台がいよいよ始まる。

 ファッションショーは、オペラ仕立ての物語へと変貌してゆく。独り立ちを促されたクリストファーとルーラの競演が繰り広げられます。

 マリーエ・ローランサンの4シーズン先の新作が次々と披露され、まるで薔薇の園を巡る様にショーは進んでいた。

 舞台は次第に、フィナーレで有るウェディングを踏まえた上で、「シュロス・ヴィント」の柿落としと、ローゼンブルク・リゾートのオープニングセレモニーを兼ねたオペラ仕立ての舞台へと変化して行く。


 かつて此処で撮影された映画のワンシーンが懐かしむようにながされている。

 まだ幼かったローラとルーラが扮した、ヒロインの双子の妹が、笑い声を立てながら薔薇の園を走って行く。幼い姿が消えた袖から、同じボンネットドレスで、成長した双子が現れ、時を現在へと繋いだ。

 その上で、双子の歩みと供に、辺りは黄昏時に移り変わり、真夏の夜の夢の結婚行進曲が流れ始めた。

 そんな中を、マリーエのエスコートをして舞台へ上がった。それまでとは違う響めきが上がる中を歩くものの何とも居心地が悪い。


 「だから止せと言ったんだ」

 「相変わらずで居らして」


 何だかクスクス笑われてしまう。


 マリーエの杖ならぬ人差し指がくるくると渦を描き、あろう事か指先から噴出したかのような金色の靄が薄れると、薄い透き通った羽を背に置いた女の子達が舞台に現れた。

 祝賀の先触れをする花片を蒔きながら、王の婚礼が行われると唄う。

 見蕩れていると、マリーエの右手が小さな箱を私に示す。

 「開けて」と手招いた彼女に従って箱を開けると、今度は銀の粉が噴出して、蜘蛛の糸で誂えた様な翼を携えた少年達が現れた。

 道理でグラヴゼルとアルバートの生徒達が大勢居たんだと納得した。

 彼等は輪舞を奏でながら王の登場を待っていた。


 もう一度マリーエが合図を送り、掌の上で箱の底を押すように示す。


 箱は、掌の上で弾けて転換を図る大きな音と閃光をもたらせた。

 右手にカーフの手袋を着けさせられたのはこの為だったか。

 音を合図にファンファーレが高らかに鳴り響き、悪戯が成就したしたり顔のマリーエが指示するままに従うしか無い私は、袖を振り返りクリストファーの登場を促すために手を延べた。


 視線を移した先には、まるでメタモルフォーゼを遂げたかのように、劇的な変化を成した姿が有った。

 本人はまるで意識していないようだ。

 驚きに声も出ない私の反応を認めて戸惑う様子が伺えたくらいだった。

 咄嗟に、少し叱責を込めた視線を送ることが、その時の私の精一杯だったが、何とかそれで、彼は留まってくれたようだ。

 促しに呼応して歩を進めた。


 蒼い薔薇が風にさざめくように、蒼と碧の境界の衣装が、漆黒の髪に映えている。  

 額に冠を置く歩みは威風堂々、彼自身が進化を遂げていたのだった。

 再びの響めきののち、会場は息を呑み静まり返った。


 目の前を歩き過ぎ、現れた後ろ姿には、妖精王の繊細な金の翼が見えた。歩みと供にふわりと拡がり、羽ばたく様に翻る。

 舞台の中央に設えられた玉座の前に王が佇むと、再びのファンファーレと供に、向かいの袖から、此方はマリーエの衣装に似た群青と、黒のモーニングに身を包んだアレンにエスコートされて、ウエディングドレスを身に纏ったルーラが姿を見せた。

 

 花のようだ…表現を思い巡らせても、それが至言で有るかのように、月並みな形容が先ず口をつく。

 咲き初めた蒼い薔薇の蕾はそれだけで神聖な印象を醸し出す。銀の産毛のようなベールを掛けた彼女自身が蕾そのもののようで、ドレスの繊細なチュールが織り成す色彩の綾が、裾に向けて開き始める花片のようだった。

 長い裾を引いて、佇む王の下へと歩み寄った彼女は、父で有るアレンの手から、王へと託された。


 手を取り合うと、王の手がプラチナのベールを引き揚げて姫の面を披露した。妖精の姫は、小さな、勝ち気なルーラの表情を巧みに内に隠して居るかの様で、咲き誇る花の匂い立つような華やかさが零れるようだった。


 頰に口づけて、エスコートに差し出された腕に姫が応えると、舞台の上の列席者と観衆から祝福の拍手が湧いた!

 三度目のファンファーレに促されて、袖はそのまま階段として降りて行き、車寄せには、白い薔薇と金モールで飾られた馬車が彼等の到着を待っていた。


 2人を乗せて馬車は進み、それにつれて白い鳩が飛び立ち、花びらが舞う。向かう教会は祝福の鐘を打ち鳴らし、淡いブロンズピンクの衣装を着けたブライズメイドが、扉を開け放って到着を待ちかねる。


 あっという間の移動に、心を捕らわれた観衆が、席を離れて付いて動いてしまっていた。覗き込むように見詰める人々の前で、止められた馬車から王が姫を助け降ろす。

 ふわりと拡がるドレスは花の臺。

 受け止める艶やかで瑞々しい枝葉と1つになった。

 時を惜しむ余り、食い入るように見詰める観客の前で、教会の扉は閉じられ、次を期待する頭上で翼の羽ばたきの音と供に、2つの強い光の玉が教会の上に現れ、二度三度旋回した後、森の方へ向かって消えていった。


 妖精王の婚礼は成って、王と王妃は、森の王国に帰還が成った。


 溜息と共に拡がる夢うつつの、終わりを惜しむ落胆が辺りを支配していた。


 再び舞台がショーの進行を再開し、司会がマリーエと我々の紹介を始めた。

 なる程、クリストファーは蜜月の最中なんだから代役が必要だったわけだ。


 「お見事!貴女にお願いして良かった!私まで使って貰えたし」

 「まぁぁ!嫌味ですの?!」

 「嫌味って…」

 「マリーエ!有難うございます!お見事でした!」


 アレンが歩み寄って言い、マリーエに握手を求めた。


 「いえいえ!皆様の素材が頗るでしたから。到しがいが有ったと言いますもの。ですが、まだ、御礼を頂くのは早うございますよ。お二方にはもうひと働きして頂きます。今夜舞踏会を催しますので」

 「舞踏会とはまたクラシカルな」

 「観衆は王の賓客でございましょう?!」

 「なるほどね。了解です」

 「仕方ないな。貴女にはクリストファーを羽化させて頂いた礼をせねばならないし」

 「わたくしの手柄では御座いませんの」

 「とにかく、この舞台を占めましょうか?!」


 2人でマリーエを両脇からエスコートして、ファッションショーの幕は下りた。

 観客はホテルへと誘われてゆき、夜の舞踏会の支度へと駆り立てられていった。

 お読み頂き有難うございました!

 夢舞台が幕を閉じました。

 クリストファーとルーラがどうなるのかは今後のお話です。彼等はまだ舞台に立ったばかりなので、今後とも宜しくお願い致します!

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