グランドオープンフェスタ
いよいよ始まったグランドオープンフェスタ。責任者として主人公へと変わるクリストファーの成長を書いた物語です。
彼が自分から成りたい自分を掴みに行きます。
歴史的な、この国にとって新しい世界へのプロローグとも言うべき、ローゼンブルク・リゾートのグランドオープンフェスタが始まる。
三年前、既存の庭の改修が完成したばかりの薔薇園と、苔生した古城を使った映画のロケーションが行われた。
その同じ場所に生まれ変わった、ガーデンホテル『シュロス・ヴィント』と森のチャペルが、映画の衣装デザインを切っ掛けに、今や、人気デザイナーと成ったマリーエ・ローランサンの新作披露の舞台に成る。と同時に、リゾート施設のこけら落としも兼ねていると有って、ヨーロッパ各地から人々が詰めかけていた。
定期的なファッションショーを、あえてシェネリンデの国家事業の一端としたのは、かねての噂に有った、この国の立役者、オルデンブルク公爵との関わりの故か?!
企画そのものに加えて、意味深なゴシップの可能性も期待の一端で有った為に、話題を浚っていた。
1週間も前から、数々のイベントが繰り広げられていて、あちこちで各国の報道関係者が取材をしていた。
好運な招待客の期待はいやが上にも盛り上がり、人々は今や遅しとショーの開催を待ち侘びているようだった。
「はい。それで結構ですよ。今は成るべく地味に参りましょう。眼鏡をお召しになって…少しスモークがかけてありますの。見えにくいかしら?!大丈夫?!では参りましょう」
司会が予定通りのショーの開催を告げ、歓声が上がる中を、マリーエ・ローランサンをエスコートして登壇した。
抑えた群青1色に見えた彼女のドレスは、マーメイドのトレーンを引いている他は、さして特色が有るようには見えなかった。
だが、照明が切り替わり、舞台を移動するに連れ、その群青が、煌めきの輪を残しながら様々なパターンを繰り返す。
まるで、夜の闇を舞う妖精が羽を閃かせてドレスを彩って居るようだった。
「妖精王の登場の様ですね」
「私だけが目立ってしまってごめんなさい。これも演出ですの」
開催の宣言と挨拶を終えて、ショーの進行が始まったのを確認して、歓声が鳴り止まぬ中を舞台袖に降りてきた。
急き立てられてメイク室に放り込まれると、ローラとルーラが揃いのボンネットドレスで出番を待っているのに出会った。
「やぁ、お人形のようだ」
「リント伯爵!あら、思いの外地味な出で立ちですのね?!」
「マリーエは、今はと言っていた。何だか策略らしい。私はラストまで出番は無いようだけど…今から着替えてメイクするらしいから」
「変身なさってきて!」
「私達は出番ですの。行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
学芸会の様な高揚感に、ルーラと仲直りできて良かったといまさらに胸をなで下ろした。沸いた歓声に、舞台が上手く回っているのが伺えて安堵の溜息もついて出た。
踏み込んだメイク室の中は、一瞬、内務省の回廊の1部に紛れ込んだかと疑う有様だった。
「殆ど皆かり出されたんだ…?!あれ?!まさか…」
案の定だった。
アレンの叔父貴が、ルーラの父親役で出演するのは知っていたが、マリーエ凄い。 父様迄駆り出したんだ。
…メイクされてる?!
そう言う顔で仏頂面しないで…
だけどまぁ…この人ホントに綺麗なんだな…マリーエのドレスが群青だった事からも判る様に、総てのコンセプトはブルーローズだった。
その、紫を含んだ蒼鈍色に映える淡いブロンドが、フェルメールの絵画を想わせる。ぼうっとしていた頭を振ると、慌てて傍に駆け寄った。
「何で、父様迄?!」
思わず叫んだ俺に、少し微笑を乗せた顔を向けると、次いで、忌々しげな表情を作って言った。
「顔見せだと。何でも使って良いと言った手前、使い方に文句は無いが、私としては不本意だ」
「有難うございます」
思わず礼を言った俺に、チラ…と視線を振った。
「うん。早く行け。呼ばれている」
妙だった。
父が俺に対する二ュアンスを変えたように感じたのだ。戸惑ったまま、部屋を移動する途中の角で、アレンの叔父貴が所在なげに座っているのに出くわした。
「こんな所に居たんですか?!父様あっちですよ」
「判っているからここに居るんだ。でないと手が出る」
「たはは…」
覚悟を決めてメイクブースの並ぶ部屋に入ると、忙しく行き交うマリーエのスタッフの他に、リュポンがいた。
「ご苦労様。凄いね」
「反響は既に出ていますよ?報道の内容も、ネットの反応も好意的なものが大半です」
「…良かった」
「此方へ」
何のためにリュポンが此処に待機していたかというと、ショーの最後を飾るウエディングの為のモーニングを、俺に着付けるために居たのだ。
従来のショーなら、デザイナーのアシスタントの仕事だが、これは半分がシェネリンデの国家事業なので、コスト削減の意味合いも有った。
だが…着付けられようとしていたモーニングがこれまた…
「物凄いバランス感覚ですね。ギリギリまで攻めてある」
「だよな…あと一歩で際物だ。衣装なんだからそう言うものかも知れないけど…これ…俺が着て大丈夫かな?!」
「またそんな…そのご心配には及びませんかと」
すました顔で言われて思わず執事の顔を見直してしまった。
驚く無かれ、青衣の少年の様なと言えば伝わるだろうか?!あれはセルリアンブルーの鮮やかな青がものを言う作品だが、これは…青は青でも何処かで見たような…
「…葉っぱだ!」
「葉っぱ?!薔薇の葉の色ですか?!これが?!」
「ブルーローズの葉の色だ。そう言う意味では花も葉も蒼が強い。薔薇はどれも…他の植物も同じだが、花ごとに葉の色も茎も全く色が違う」
「それぞれがその組み合わせ以外有り得ないと言えるほど、自然の色合わせの妙は凄いんだ」
リュポンは、神妙に聞いてるかと思ったのも束の間、それは自分の仕事の範疇に無いとばかりに、さっさと衣装を着せるとホテルの管理業務に戻ると出て行った。
入れ替わりにケインが俺の面倒を見にやって来て、飲み物の世話など焼いてくれたが、その実、父様の様子を見に来たんだろう。
その後、顔の産毛を剃られ、基礎化粧品を塗りたくられ、メイクを施された。
そりゃー遠くからでも目立つように、目鼻立ちがハッキリした方が良いんだというのは分かるんだが…
父様で無くとも、不本意だった!
お読み頂き有難うございました!
産まれた瞬間からでは無かったのですが、2歳の赤ちゃんだった彼が、事業の責任者として自分の足で歩み始める所を書けるとは、思いもしない幸せでした!
有難うございました!




