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コールネーム   作者: みすみいく
17/19

グランドオープンフェスタ

 いよいよ始まったグランドオープンフェスタ。責任者として主人公へと変わるクリストファーの成長を書いた物語です。

 彼が自分から成りたい自分を掴みに行きます。

 歴史的な、この国にとって新しい世界へのプロローグとも言うべき、ローゼンブルク・リゾートのグランドオープンフェスタが始まる。

 

 三年前、既存の庭の改修が完成したばかりの薔薇園と、苔生した古城を使った映画のロケーションが行われた。

 その同じ場所に生まれ変わった、ガーデンホテル『シュロス・ヴィント』と森のチャペルが、映画の衣装デザインを切っ掛けに、今や、人気デザイナーと成ったマリーエ・ローランサンの新作披露の舞台に成る。と同時に、リゾート施設のこけら落としも兼ねていると有って、ヨーロッパ各地から人々が詰めかけていた。


 定期的なファッションショーを、あえてシェネリンデの国家事業の一端としたのは、かねての噂に有った、この国の立役者、オルデンブルク公爵との関わりの故か?!

 企画そのものに加えて、意味深なゴシップの可能性も期待の一端で有った為に、話題を浚っていた。


 1週間も前から、数々のイベントが繰り広げられていて、あちこちで各国の報道関係者が取材をしていた。

 好運な招待客の期待はいやが上にも盛り上がり、人々は今や遅しとショーの開催を待ち侘びているようだった。


 「はい。それで結構ですよ。今は成るべく地味に参りましょう。眼鏡をお召しになって…少しスモークがかけてありますの。見えにくいかしら?!大丈夫?!では参りましょう」


 司会が予定通りのショーの開催を告げ、歓声が上がる中を、マリーエ・ローランサンをエスコートして登壇した。

 抑えた群青1色に見えた彼女のドレスは、マーメイドのトレーンを引いている他は、さして特色が有るようには見えなかった。

 だが、照明が切り替わり、舞台を移動するに連れ、その群青が、煌めきの輪を残しながら様々なパターンを繰り返す。

 まるで、夜の闇を舞う妖精が羽を閃かせてドレスを彩って居るようだった。


 「妖精王の登場の様ですね」

 「私だけが目立ってしまってごめんなさい。これも演出ですの」


 開催の宣言と挨拶を終えて、ショーの進行が始まったのを確認して、歓声が鳴り止まぬ中を舞台袖に降りてきた。

 急き立てられてメイク室に放り込まれると、ローラとルーラが揃いのボンネットドレスで出番を待っているのに出会った。


 「やぁ、お人形のようだ」

 「リント伯爵!あら、思いの外地味な出で立ちですのね?!」

 「マリーエは、今はと言っていた。何だか策略らしい。私はラストまで出番は無いようだけど…今から着替えてメイクするらしいから」

 「変身なさってきて!」

 「私達は出番ですの。行ってきます!」

 「行ってらっしゃい!」


 学芸会の様な高揚感に、ルーラと仲直りできて良かったといまさらに胸をなで下ろした。沸いた歓声に、舞台が上手く回っているのが伺えて安堵の溜息もついて出た。


 踏み込んだメイク室の中は、一瞬、内務省の回廊の1部に紛れ込んだかと疑う有様だった。


 「殆ど皆かり出されたんだ…?!あれ?!まさか…」


 案の定だった。

 アレンの叔父貴が、ルーラの父親役で出演するのは知っていたが、マリーエ凄い。   父様迄駆り出したんだ。

 …メイクされてる?!

 そう言う顔で仏頂面しないで…

 だけどまぁ…この人ホントに綺麗なんだな…マリーエのドレスが群青だった事からも判る様に、総てのコンセプトはブルーローズだった。

 その、紫を含んだ蒼鈍色に映える淡いブロンドが、フェルメールの絵画を想わせる。ぼうっとしていた頭を振ると、慌てて傍に駆け寄った。


 「何で、父様迄?!」


 思わず叫んだ俺に、少し微笑を乗せた顔を向けると、次いで、忌々しげな表情を作って言った。


 「顔見せだと。何でも使って良いと言った手前、使い方に文句は無いが、私としては不本意だ」

 「有難うございます」


 思わず礼を言った俺に、チラ…と視線を振った。


 「うん。早く行け。呼ばれている」


 妙だった。

 父が俺に対する二ュアンスを変えたように感じたのだ。戸惑ったまま、部屋を移動する途中の角で、アレンの叔父貴が所在なげに座っているのに出くわした。


 「こんな所に居たんですか?!父様あっちですよ」

 「判っているからここに居るんだ。でないと手が出る」

 「たはは…」

 

 覚悟を決めてメイクブースの並ぶ部屋に入ると、忙しく行き交うマリーエのスタッフの他に、リュポンがいた。


 「ご苦労様。凄いね」

 「反響は既に出ていますよ?報道の内容も、ネットの反応も好意的なものが大半です」

 「…良かった」

 「此方へ」


 何のためにリュポンが此処に待機していたかというと、ショーの最後を飾るウエディングの為のモーニングを、俺に着付けるために居たのだ。

 従来のショーなら、デザイナーのアシスタントの仕事だが、これは半分がシェネリンデの国家事業なので、コスト削減の意味合いも有った。

 だが…着付けられようとしていたモーニングがこれまた…


 「物凄いバランス感覚ですね。ギリギリまで攻めてある」

 「だよな…あと一歩で際物だ。衣装なんだからそう言うものかも知れないけど…これ…俺が着て大丈夫かな?!」

 「またそんな…そのご心配には及びませんかと」


 すました顔で言われて思わず執事の顔を見直してしまった。

 驚く無かれ、青衣の少年の様なと言えば伝わるだろうか?!あれはセルリアンブルーの鮮やかな青がものを言う作品だが、これは…青は青でも何処かで見たような…

 

 「…葉っぱだ!」

 「葉っぱ?!薔薇の葉の色ですか?!これが?!」

 「ブルーローズの葉の色だ。そう言う意味では花も葉も蒼が強い。薔薇はどれも…他の植物も同じだが、花ごとに葉の色も茎も全く色が違う」

 「それぞれがその組み合わせ以外有り得ないと言えるほど、自然の色合わせの妙は凄いんだ」


 リュポンは、神妙に聞いてるかと思ったのも束の間、それは自分の仕事の範疇に無いとばかりに、さっさと衣装を着せるとホテルの管理業務に戻ると出て行った。

 入れ替わりにケインが俺の面倒を見にやって来て、飲み物の世話など焼いてくれたが、その実、父様の様子を見に来たんだろう。


 その後、顔の産毛を剃られ、基礎化粧品を塗りたくられ、メイクを施された。

 そりゃー遠くからでも目立つように、目鼻立ちがハッキリした方が良いんだというのは分かるんだが…

 父様で無くとも、不本意だった!


 

 お読み頂き有難うございました!

 産まれた瞬間からでは無かったのですが、2歳の赤ちゃんだった彼が、事業の責任者として自分の足で歩み始める所を書けるとは、思いもしない幸せでした!

 有難うございました!

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