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コールネーム   作者: みすみいく
12/19

永久

 長い時をかけて、2人のスタンスが変わる時を迎えていた。ともすれば舞台を降りてしまいかねないアウルを、隣に立ちつづける伴侶とすることが出来るのかが、アレンに課せられた役割なのだった。

 後ろを振り返りもせず、アウルはどんどん森の奥へと歩いて行ってしまう。さすがにこんな所まで来る客はいない。

 今は未だグランドオープンの前で、開いている施設も限られているからと言うことも有ったが、それで無くともこの道は、私有地を隔てる目的で、フェスタの後は錠で閉じられることになっていた。


 指輪を交わして2人だけでは有ったが、式も挙げた。とは言っても、アウルの心の内には未だ釈然としない部分が残っているという事だろう。


 俺を彼以外の者から切り離してしまいかねない現状を、止む無しと出来ずに居る。その意味では、離れていた10年は未だ続いて居るのだった。


 いつの間にか、鱒が食べたいと釣りに興じた渓谷の上流まで来ていた。

 アウルの足が止まり、水面を見詰めて、俺と同じように思い出を振り返って居るかに見える。

 何かを思い切るときの癖で、眉根に皺を刻んで頭を振ってきびすを返した。


 俺が後を追って来て居るのに全く気付いて居なかったようだ。

 理解できない事態に、一時空白が支配し、見られていた事を自覚して満面に主を注ぐ…なんてもんじゃ無い。

 真っ赤に成ってしまった。

 にも拘わらず、ひと言も言葉が出てこないようだった。


 …わは…可愛い!

 言えば怒らせてしまうと思いながらも口元が緩む。


 「…ル…ルイに懐かれて居たんじゃ無いのか?!戻るぞ!」

 

 紅くなったまま泪を湛えて居るのを見せまいと、顔を背けて俺の横をすり抜ける。ぽん、と、その背中を押して抱き込んだ。


 「…何を…」

 「駄目です。可愛すぎ」

 「…何処が?!」

 「全部でしょ?!欲しくて堪らないのにべそかくまで我慢して、ふくれっ面に成っている所とか」

 「俺はね。言わないだけで何時も思っているんです。ついさっきも、俺に気付いた貴方を見て、わは、可愛いって思ってしまった」

 「怒るから貴方の耳には入れないだけです。こんな事なら我慢するんじゃ無かったな」

 「変態」


 ふくれっ面に加えて、お決まりの睨みを向けながら悪態をつく。


 「その変態が1等大事なんで、そうやって泣いてるんでしょうに。良いじゃ無いですか?!見るのは俺だけなんだし」


 あ!そうかと、判りやすく納得すると、湯気が出そうに紅くなって、胸に顔を隠してしまう。俺じゃ無くてもトロトロなんだけどなぁ…


 「それ…俺だけにしといて下さいね。目の前でやられたら、堕ちない奴は居ないと思うんで」

 「…嘘だ」

 「だからぁ…堕としてきたでしょう?!それぞれに、しっかり自我を確立してる奴等を何人も」

 「なっ…私がいつ?!」

 「そう。貴方は何もしていませんよ。愛されることを知らない、もの言う瞳が見詰めるだけ。それだけです」

 「もの欲しそうにか?!」

 「…本気で言うんですからね…与えられて当然の愛を知らない貴方だから仕方の無いことなのかも知れ無いけれど…そんな貴方だからこそ…頼り無くて、愛しくて放っておけない」


 言われて、紅くなったままぷいとそっぽを向いてしまう。そう言う顔もとても効いているんですけどね?!

 照れ隠しのように俯くとぼそりと言う。


 「…私は自分が嫌いだからな」

 「俺を愛する貴方は嫌いですか?!」

 「…かも知れない」

 「俺を傷付けるから?!」

 「そうだな」

 「俺の未来を奪うから?!」

 「うん。お前を未来へ繋ぐ機会を奪う」

 「そんな事が問題では無い事は知っているでしょう?!」

 「どうして?!私が消えれば直ぐにでも繋がる未来だ」

 「じゃあ?俺を愛することを止めなさい」


 俺に向けていた視線を、固唾を飲み込む意思と共に逸らせると、唇を固く閉ざしてしまった。


 「俺は止めませんよ」


 言葉を繋がなくては、貴方は、自分を否定して終わらせてしまう。


 「貴方が俺に応えてくれなくとも、俺は貴方を愛することを止めません。止められない。だから、貴方が俺を離れてしまったとしても無駄なことだ」

 「15で貴方に置いて行かれても、思いは止まなかった。検証済みです」

 「待って10年に成る。この先も同じです」


 少し顰めた眉と、見張る瞳が白い瞼に閉じられると、目尻からすうっと涙が伝う。


 「お前に出逢って、呼び覚まされたように生きていたいと思った。だが共に有るには数々の手段が必要に成っている」

 「ルーラに言われた。女に成りたかったのか?!と。成りたかったわけでは無いが、女で有れば生きていること自体が障害に成りはしなかった」

 「コンスタンツ・アウロォラ。名前そのものが、男で無ければと言う両親の意図を示している様だろう?!」

 「女として産まれていれば、兄の妃はローザだったろうし、私の夫はお前だっただろう。周りが覇権を争うことも無く、何の問題も手段も要らない」

 「お前に惹かれていたかは判らないがな」


 告白の微笑は限りなく透明だった。


 「かも知れない。そして、シェネリンデは属国のままだ」


 俺の言葉に、不可思議を噛みしめて目を瞬かせている。

 やっぱり貴方は、自分の事等何も判っていなかったんだ。

 お読みいただき有難うございました!

 アレンが、護られる者から護る者へと成長を遂げる話しでした。これが有って漸く、2人の間が真実のものになるんです。

 彼等の話としては、これと、次で第1段階のクリアと成ります!

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