躊躇
形を変えて過去が再び訪れていた。
だが、それは彼等を揺るがす出来事では無くて、新しい段階への切っ掛けになるものだった。このチャンスを掴むことが出来るのだろうか?!
アレンがソルボンヌに在籍していた頃、ラルフ・ストラダとの関わりの他にも、彼の娘で有るエステルと、交際していた時期が有った。
鈍感な奴は、彼女の気持ちを汲むことも出来ずに、社交辞令だった等と馬鹿なことを言うのだが、将来を考えても不思議の無い相手だったのにも気づかずに終わってしまったのだった。
彼女は後に、学者肌の朴訥な男と結婚に至った。アレンに懐いている小さなルイが、彼の子に成っていても不思議では無かった。
「申し訳ないが、私は一旦戻るよ。アレン、後を頼む。夕食は自慢のジビエを試して頂く事にしよう」
「失礼ながら。閣下に伺いたいことがございますの」
彼女等を迎えて戻ったアレンと合流してから、正しくは、エステルと供に訪れた綾乃を認めた時から、彼女が何かしら私に含むところが有って、ここへやって来た事は判っていた。
「何だろう?!席を変えますか?!」
「はい。出来ますならば」
やはり尋常では無い。
ガーデンカウチを離れて、薔薇の間を庭の方へ歩き、噴水の近くまで来ると、話し声も届きそうに無くなった。
幸い他の客の姿も近くには見えない。
「閣下には、私の従兄弟、藤堂政直とオックスフォードで同窓で有られた。今でも連絡をとっております?!」
「政直が?!」
「はい」
どうやら私に含むところと言うよりは、政直の安否が不明なようだ。
「…最後に会ったのは2年ほど前ですよ。彼が何か?!」
「失礼を承知で伺います。最近は此方へ伺っては居りませんか?!」
「いいえ。何?!行方不明なの?!」
「欧州に来ているらしい事だけは判っているのですが…」
「お国の議員選に出ると言っていたが」
「ええ。そうなんです!なのに、急に欧州に移住するかも知れないからと中止したんです」
「準備を進めていた父が…私の父は政直の母方の叔父に当たりますの。跡を継いでくれると喜んで居りましたのですけど…そうですか…」
彼女の落胆は痛々しい程だった。
「父上にはお気の毒でしたね」
「あ!本当に失礼なことばかり…申し訳ございませんでした!」
「いや…政直は日本に居るのが辛い事が有ったと言っていたから…そのせいじゃ無いかな?!」
「出来事が何かは彼に聞いて下さい。父上にお気お落としの無いようにと」
心配そうに此方を伺う、ガーデンカウチの2人の視線を感じながら歩いた。
綾乃が隣で溜め息を付く。
「有難う御座います。エステルのバースデーパーティーの時の、閣下と政直を見ていたら、てっきり…って。とんだ早合点でしたわ」
「貴女のような察しの良さは政直には有りませんでしたよ。彼にも私にも、他に思う相手が居て…馴れ合いとでも言うかな?!」
「まぁ!」
「何方も悪い奴には変わりは無い」
「とてもその様にはお見受けできませんでした。閣下には恐ろしい方でいらしたのね?!」
「ええ。彼を試薬として使ったエゴイストです。だから、閣下は止めてアウルと呼んで下さい」
微笑みの戻った綾乃に別れを告げて、彼等の元を離れようとした。
アレンがあやしていたルイをエステルに渡して、追随しようとしたところ、えらく気に入られて居たらしく、必死に諸手を延べて後追いをした。
微笑ましい…私が傍に居なければ、たった今からでも彼の今後は、こうした未来へと繋がっていく。
…コツンと、背中に、覚えの有る暖かい鼻先が触れた気がした。
…懐いていた子馬。
鼻先を擦り付けて構えというのを、父が帰宅したと聞いた私は、置いて屋敷へ戻った。
その夜から2年もの間、立て続けに起こった事件で、心身共に傷付いた私を慰めるために、誰かが牧場へと連れ出した。
見覚えていた牧場は懐かしさで私を癒した。?!…あれから随分経った、大人に成っただろうあの仔は、何処か他の牧場に移ってでも居るのだろうか?!
あちこち探し回る私を見かねて、牧童が告げた。
「坊ちゃまがお帰りに成るのが判ると…後追いをしまして…柵を跳び越え損ねて足を痛めました。止むなく…」
…始まりは、父と母。
次は、先王。
…周りを元気に走り回っていた子馬。
…そして、ローザ。
…次は?!
お読みいただき有難うございます!
本当に長々同じ様なことをと思いながらも性懲りも無く書き続けて参ります。
お付き合い下さいませ!




